一人ひとりの作業員の動きをデータ化して、改善点を見つけ出し、日々の作業停滞の改善につなげる。淺沼組が国土交通省と開発を進めている「熟練技能維持システム」は、ロボット化のような劇的な生産性を上げる技術ではないが、人が働く現場で本来的な生産現場力の維持・向上に挑戦する技術と言える。7月には携帯型モーションセンサーによる土木現場作業員の動線把握技術を追加し、進化を続けている。
労働時間・人数と工事価格が単純にリンクしない建設業においては、生産性を測る指標として一般的に使用される「付加価値労働生産性」を当てはめにくく、1人当たりの現場での作業時間と作業量である「歩掛かり」こそ労働生産性指標そのものと言える。だが、作業員ごとの「歩掛かり」を元請けが正確に把握することは難しく、建設現場の生産力を測る指標が少ないのが現状だ。建設会社各社は実績を踏まえた工種ごとに独自の歩掛かりを保有しているが、いわば経験則に基づく数値であり、「実測値」ではない。
こうした課題を解決する端緒を開いたのが、ICT(情報通信技術)だった。「熟練技能維持システム」では、GNSS(全地球測位航法衛星システム)受信機を付けたモーションセンサーを作業員が装着することで、現場内外での動線を把握できる。現場内外での移動状況を座標データ化し、年月日と歩行スピード、温度なども把握できる。現場内で最も作業進捗に寄与するエリアを指定すれば、その範囲内で働いた時間や移動状況も記録する。
作業員の動線が多く重なる部分は、移動速度が阻害される要因となるため、移動経路を改善するきっかけになる。作業員の多くが歩行中に向く方角を“注視点”と考えれば、問題の芽を摘むこともできる。淺沼組の田村泰史土木事業本部建設マネジメント室兼技術設計第2グループ課長は、「作業員の動きを『見える化』することで、問題点や改善点に気付くことができる」と狙いを語る。
分析ソフトでは、日数・時間ごとの工事進捗度と現場で稼働している人員数をグラフ化し、作業が最も進んでいる時期に現場に実際投入した人員数などを把握する。統計解析上、最適な1日当たりの人員数を予測し、作業開始から1週目の1日当たりの人員数と最適人員数を比べ、次週以降の人員配置を検討することも可能だ。一人ひとりの動きのデータを定量化することで、熟練技能者と未熟練技能者の動き方の違いをつかみ、日々の作業の改善につなげるだけでなく、技術の伝承につなげることも大きな目的だ。
携帯型モーションセンサーを装着した状態 |
動線把握と日々の改善、施工計画と実際の作業の比較によるきめ細かな工程管理の先にあるのは、「適正工期」と言える。作業員の歩掛かりの実態を把握できれば、より現実的な充当人員計画とそれに基づく適正工期がはじき出せる。
この技術の発展性は、工事現場だけでなく、「インフラの維持管理にまで活用可能」(田村課長)という部分にある。現在、1橋梁の点検に掛かる人数と時間という正確な歩掛かりは、「存在しない」といっても過言ではない。携帯型モーションセンサーを装備した技術者が、橋梁の点検に実際に掛かった時間のデータを積み重ね、熟練技術者の向いている方向や動き方を定量的な形で次世代に伝承できるほか、維持管理の適正歩掛かりの作成による実態にあった発注にも結びつく可能性がある。
田村課長は、「次世代の建設生産システムを効率的に運用するためには、求められる成果に対して情報化施工などのツールを使い分けるマクロ的マネジメントと、具体的な動きを把握して評価するミクロ的マネジメントが両輪で動く必要がある」と目指す方向を語る。作業員の動線把握と行動分析は、新しい時代の建設生産現場を構築するための“必要条件”にほかならない。
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