2016/08/14

【本】「寡黙な中心人物」アイノ・アールトの実相に迫る『AINO AALTO』


 20世紀を代表する建築家の一人、アルヴァ・アールト。その後世に残る重要な業績は決して一人でつくりだされたものではないことを、妻であり2児の母、そして協働者としてのアイノの生涯をひも解くことで明らかにする。

 アイノとアルヴァら4人で1935年に創業した家具会社、アルテックの設立契約書の中で、2人が対等な建築家で協働者であることを宣言しているように、アールト事務所における1920-40年代の建築デザインの成果は、まさに2人の相互作用によって実現した。互いの才能を認め、補完し合う関係は半面、アイノが果たした役割の大きさを見えにくくしている要因ともなっている。
 本書は、2人の孫であるヘイッキ・アラネンを始めとする6人の研究者による多角的な論考と、写真や図版を中心とした多彩な資料や文献によって、女性が能力によって社会に自らの立ち位置を確保することが容易ではなかった時代に、才能豊かな人生を生き抜いた「寡黙な中心人物」の実相に迫る。アイノの作品集であると同時に、アイノの目線を通じてアルヴァをより深く知る1冊ともなっている。
(TOTO出版、3800円+税)

■「アイノ・アールト展」@ギャラリーエークワッド 8/12-10/31
 竹中育英会とギャラリーエークワッドは、展覧会「AINO AALTO(アイノ・アールト) Architect and Designer-Alvar Aaltoと歩んだ25年-」を、12日から東京都江東区の竹中工務店東京本店内にあるギャラリーエークワッドで開く。
 展覧会では、20世紀を代表するフィンランドの建築家、アルヴァ・アールトの妻であり、仕事上でもパートナーとして、その建築デザインに多大な影響を与えたアイノの、建築家・デザイナー・フォトグラファーとしての生涯を俯瞰(ふかん)するとともに、妻であり母としての素顔にも触れる。会期は10月31日まで(8月13-21日は夏季休館)。無料。
 10月18日には建築家の内藤廣氏とアイノ・アールト研究者のウッラ・キンヌネン氏を講師に招いてシンポジウム「アイノ・アールトの果たした役割」も竹中工務店東京本店2階Aホールを会場に開く。開演は午後6時30分から。無料。詳細は公式サイトを参照。
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