2015/09/19

【建築学会】パワーアシストスーツは作業員不足時代の救世主になるか?


 ゼネコンが現場で実証作業を進めるなど、建設業の労働力不足を解消する手段のひとつとして注目を集めるパワーアシストスーツ(PAS)。神奈川県平塚市の東海大湘南キャンパスで開かれた日本建築学会大会(4-6日開催)では、5日に材料施工委員会が「PASは建設作業の作業員不足時代の救世主になるのか?」をテーマにパネルディスカッションを実施し、技術開発の方向性を再確認した。現状では安全性や費用対効果に課題があるものの、パネリストからは「現場での改良努力を続ければ救世主となり得る」などの意見が出され、将来的には生産性向上の切り札になり得るという認識で一致した。写真はアクティブリンクが9月1日から販売開始したアシストスーツの実演。

 パネルディスカッションではCA(コンストラクション・オートメーション)技術小委員会主査の井上文宏湘南工科大教授が、建設生産の自動化ニーズとPASが担うべき役割などを説明。3Kに代表される作業環境や他業種に比べて低迷している賃金による若者の建設業離れ、作業員の高齢化など建設生産が抱える将来的な課題を解消するために、「自動化やロボット化を積極的に進めるべき」と指摘した。
 パワーアシスト技術のニーズ把握のため、CA技術小委員会がゼネコン社員154人と協力業者17人に対して実施したアンケート結果も発表。「パワーアシスト技術(製品)を知っているか」という設問に対しては、「はい」と回答したゼネコン社員は8割にのぼったが、協力業者は4割にとどまり、関心度に大きな差が出た。
 現場での使用についても、ゼネコン社員は積極的な姿勢を示す半面、協力業者は消極的な傾向にある。使用したくない理由としては、ゼネコン社員、協力業者とも安全面での不安や費用対効果に対する懸念などを挙げている。「使用したい作業」では、重量物運搬や繰り返し作業を伴う荷の移動、長時間の同一作業、体に負荷がかかる姿勢での作業に対するニーズが高く、腰や腕などの負担を軽減するツールとしての期待も大きい。
 購入したいと思う金額は、5-40万円程度が大半を占め、1日当たりのレンタル費用は1000-4000円程度が多い。パワーアシスト技術に対する期待では、多様な作業に対応できる商品開発、軽量化、着脱の簡素化といった回答が寄せられた。

パネルディスカッションでは、最新の開発動向や現場での実証作業などが報告された

 井上教授は、「導入に前向きな意見も多くみられた点は評価に値する」とし、「安全性への不安や装着の手間、費用対効果が不明といった課題を払拭していけば普及が進むのではないか」と締めくくった。
 引き続き、国土交通省国土技術政策総合研究所の眞方山美穂氏が自動化・ロボット化技術に関する国の取り組み、新井健生阪大教授がパワースーツの研究開発の現状についてそれぞれ説明した。戸田建設の鈴木信也氏、アクティブリンクの藤本弘道社長による、実用化に向けた課題の解説に続いて、大林組の上田尚輝氏、竹中工務店の永田幸平氏が現場での実証作業の状況などを説明した。
 パネルディスカッションでは、「現場での作業は複合作業なので、さまざまな作業に使えるように改良していけば普及はしていく」「労働人口が減り、高齢化も進む中で、普及させないといけない」「PAS単体だけでなく、作業環境、運用の仕方を考えないと作業効率向上につながらない。単体の開発だけでなく、作業の中でどう使うかを考えていく必要がある」などの意見が出された。
 PASの耐候性に関する会場からの質問に対し、藤本社長は、「商品をつくる段階で耐候性も考慮しているが、農業、災害対応など各分野で違ってくるので、現場の要請に合わせて将来的にラインアップを増やしていきたい」と答えた。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【早大理工研】競争力強化のヒント探るシンポ「次世代建設産業戦略2025」3月3日開催  早大理工学術院総合研究所の次世代建設産業モデル研究会(主宰・五十嵐健招聘研究員)は3月3日、東京都新宿区の早大西早稲田キャンパス63号館201教室で、「次世代建設産業戦略2025-成熟の中の成長を目指して-」と題したシンポジウムを開く。  シンポジウムでは、同研究会の3年余りにわたる成果をまとめた書籍『次世代建設産業戦略2025-活力ある建設ビジネス創成への挑戦』をもとに、大手、地場クラスなどそれぞれの立場で、生き残りをかけた競争力強化のヒ… Read More
  • 【震災記録誌】第3弾『地域のために地域とともに』発行 フォーラムも3月16日開催 宮城建協 宮城県建設業協会(佐藤博俊会長)は、東日本大震災記録誌の第3弾となる『宮城県建設業協会の闘い3-地域のために地域とともに』を発行した=写真。被災地の街づくりが本格化し、災害公営住宅の建設もピークを迎える中、学校や住宅の施工などを手掛けた技術者の声を紹介。学校長や自治会長、首長ら第三者のインタビューも交え、復興への歩みと地域建設業の活躍をまとめた。  第3弾記録誌は2000部作成し、県内の図書館や学校、自治体などに配布するとともに、近く… Read More
  • 【募集】台湾で土木遺産を巡るツアー開催! 5月に4泊5日、土木学会北海道支部 土木学会北海道支部は、土木遺産を通して北海道との交流を深める台湾ツアーを企画し、参加者を募集している。烏山頭ダム=写真=での慰霊祭のほか、台南博物館や台湾大の磯永吉記念館、故宮博物院の見学などを予定している。  土木学会選奨土木遺産である台湾の烏山頭ダム建設を陣頭指揮した八田與一と、夕張川新水路を建設した保原元二は、東京帝大で廣井勇門下の同期生として知られる。有志はこれまで、台湾で開かれている八田與一夫妻の慰霊祭に参加した。 一方、昨年初め… Read More
  • 【建築甲子園】全国での健闘称える! 群馬士会が準優勝の桐生工高を表彰 群馬建築士会(田中惠輔会長)は1月28日、前橋市のアニバーサリーコート・ラシーネで理事会を開催し、「第5回高校生の建築甲子園」で準優勝に輝いた桐生工業高校の表彰式を開いた。田中会長は、「群馬県の代表として、全国の都道府県の代表が集う中で準優勝になるのは素晴らしいこと」と話し、監督教員の上石賢一教諭、3年生の木戸桃子さん、木村涼冴さん、鈴木祐太さんに表彰状と記念品が手渡された=写真。  生徒が提案したのは、桐生市内の「重要伝統的建造物群保存地… Read More
  • 【土木学会デザイン賞】「泉パークタウン」が優秀賞! 緑豊かな統一感あるまちづくり評価 三菱地所グループが仙台市泉区で進めている、民間最大規模のニュータウン開発「泉パークタウン」=写真=が、土木学会のデザイン賞2014で優秀賞を受賞した。1974年の分譲開始以降、40年以上にわたり、「住む」「働く」「憩う」「学ぶ・集う・楽しむ」という多彩な生活機能を備えた複合型の都市構築をテーマに、まちづくりを進めてきた。受賞に当たっては、民間開発でここまで緑量のある幹線街路や優れたアプローチを形成したこと、約1074haという広大なエリアを… Read More

0 コメント :

コメントを投稿