2015/09/20

【技術裏表】公共施設に富山スギ化粧パネルで地域材活用 大建工業


 大建工業が、富山県農林水産総合技術センター木材研究所と進めてきた富山県産スギ活用の共同研究が着々と成果を上げている。ことし3月に開業した北陸新幹線では黒部宇奈月温泉駅や富山駅の壁材に採用されたほか、県内の市役所や小学校にも導入され、公共施設への採用に勢いが増す。同社井波工場の新田健課長は「富山の実績を足がかりに、他県での地域材活用にも弾みが出てきた」と手応えを口にする。

 共同研究がスタートしたのは2012年6月。北陸新幹線の建設が着々と進行する中、同社が駅舎を始め県内公共施設への地域材活用を持ちかけたことが研究のきっかけとなった。商品展開では『日本の樹』シリーズと銘打った床や建具などの住空間向けに国産材製品の販売を始めていたが、反響はあったものの、値段が高いこともあり、思うような成果を得られずにいた。住宅以外にも販路を拡大したいと、目を付けたのが公共施設への展開だった。
 しかし、公共施設向け建材は不燃などの対応が強く求められる。これまで駅舎では木材に薬剤を染みこませた不燃材の採用が一般的だったが、結露によって薬剤が表面に出てしまう課題もあった。同社には高い防火性能を誇る火山性ガラス質の不燃素材板『ダイライト』があり、この表面に木材を貼り付ければ、化粧パネルとして成立すると考えていた。

間伐材を有効活用する

 両者は新川森林組合(富山県魚津市)に出向き、富山産スギ活用の可能性を視察し、そこで間伐材に目を付けた。山の急斜面に生えている木は上に向かって成長していくため、根本が曲がった状態になり、製材としては使いにくい。その根本部分を有効活用すれば、コストメリットも生まれる。
 開発した化粧パネルは、厚さ6mmのダイライトに、スライスした厚さ0.2mmの木材を貼り合わせたもの。35mm角にした木材25本程度を並べた状態で1枚の大きな板に集成加工し、それを0.2mmほどの厚さに切り、手作業でダイライトの表面に貼り付ける。木材長さが2mほどあれば加工できるため、根本の部分でも十分に使える。

北陸新幹線黒部宇奈月温泉駅の壁材に初採用された

 黒部宇奈月温泉駅では、コンコース、待合室などの壁や天井に約400㎡の富山スギ化粧パネルが採用された。これがきっかけとなり、富山駅にも改札やみどりの窓口の柱や壁面に約200㎡が導入された。ここではアルミ基材にスライスした富山スギを張り、下見板風に仕上げた。新田氏は「単に35mm角のスギ材を集成加工するのではなく、表面の模様にバラツキが出ないように一手間かけて調整することで、木の風合いをしっかり表現できている」と強調する。
 県内では、小矢部市が市役所のロビー壁、石動小学校の腰壁に富山県産スギを使った不燃パネルの採用に踏み切った。市では床材やラックにも県産スギを使う力の入れ様だ。職員を対象にしたアンケートでも、木の風合いによって落ち着いて仕事ができるなど回答者の95%から高い評価を得た。
 地域材活用の手応えは、富山県内での実績を足がかりに、他の地域にも広がりを見せ始めている。設計者への売り込みがきっかけとなり、現時点で進行中の公共プロジェクト5件への採用がほぼ決まった。ことし5月に発表した長期ビジョンで、建築資材の総合企業への転身を掲げる同社は、公共・商業建築分野の業績を今後10年間で3倍に引き上げる計画を立てる。
 動き出した地域材活用の受注展開は、公共・商業建築分野開拓の成功事例に位置付けられている。
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