2015/09/20

【建設教室・2020以降の建設学】パラリンピックを機に総合的受入体制確立 山下PMC川原社長


 医療・介護関連の施設計画がなかなか進められずに苦戦している話を最近よく耳にする。もともとこれらの施設から得られる収入は認可制度等で固定的に定まってしまうので、かけられる建設費も収支を成り立たせるための額に自ずと決まってくる。それに特別な事業的工夫の余地も限られている。そこに来て昨今の建設費の高騰である。前に進めたくても進められなくなるのも当然だ。なので今どうしてもつくらなければならない場合を除き、計画を先送りにするケースが増えているのである。この状況は2020年あたりまで続くと予想されている。だからと言って、これらの施設が不要という訳ではない。むしろ、これから未来に向けて最も必要な部類の施設であることに誰も異論はないだろう。


2020年、団塊世代が後期高齢者に

 そして、ちょうど時を同じくして、その2020年ごろに団塊世代の多くが後期高齢者(75歳以上)に達する現実がある。ということは、現在の社会保障制度をこのまま維持していけるとはとても考えられない事態となる。抜本的な見直し議論が必ず起こるだろう。労働組合が強かった時代に整備された豊かな年金制度を始めとする現行の社会保障のしくみは、団塊世代を最後に終焉(えん)を迎える気がしてならない。おそらく年金支給年齢が引き上げられたり、医療費などの負担額が増えたりするのは目に見えている。
 施設自体の行く末を心配することも大切だが、その前に今後向かおうとする社会保障制度そのものを予測することや、それを見越した備えを施設に託していくことはもっと重要だと私は考える。現在はまだ制度の中に含まれていない「健康増進」や「スポーツ振興」などの隣接領域も、いずれ許容され組み入れの対象になるだろう。さらに、既存の公共施設やホテル・旅館などを医療・介護施設に用途変更するような試みも各地で始まっている。近年、あらゆる業種でインテグレーテッド(集約・統合)化の動きが活発化しているが、この分野にもその波は確実に届いている。これに最先端の再生医療技術などが加わり、さらに大きなうねりに成長しようとしている。例えばロボット産業など、想像もしなかったような業種との融合で新たなイノベーションに発展したり、地域における既存の遊休資産を有効活用したりすることで、さまざまな化学変化が起こり、次世代につながる先進的な事業モデルと施設モデルの総合体を誕生させるような機運が高まっている。この傾向は、今後さらに加速度を強めそうである。

元気な高齢者層を増やせ

 前回も述べたとおり、少子高齢化社会を健全に維持していくには、とにかく元気な高齢者層を増やし(さらなる女性活用も併せ)、実質的生産人口(就労者人口)を増やして、内需を大きく廻す収支モデルを構築していくしか解決策は見当たらない。私は、そのうち年齢差別ということで、定年制さえも撤廃されるのではないかと思っている。たとえ人口構成が変わったとしても、稼ぐしくみを高めていくこと、国民全体が快活な暮らしを続けられること、制度の枠を超えて健全な産業として医療・介護分野が拡がっていくことが必須の条件となる。施設建築は、これを実現させるための装置として必要視されていくのである。
 奇しくも2020年は東京五輪・パラリンピックの開催年である。そして、この観点から着目すべきはパラリンピックである。多くの選手=障害者と健常者が一度に移動し、活動や交流を行う場となる。それには、施設ばかりか都市や地域を覆う面的な拡がりのユニバーサルデザインと人的サービスを組み合わせた総合的な受け入れ体制を必要とする。これが1つの試金石となり、2020年以降の少子高齢化社会を形づくる道筋となって普及していくはずである。
 日本は少子高齢化が世界一のスピードで進行していく。それは、日本が未踏の領域をどの国よりも早く体験することを意味する。ついつい悲観的なことばかり考えがちになるが、もしこれをうまく突破したならば、世界の模範となることができる。そして、それだけの潜在力を日本は有していると確信する。建設産業もこの流れをリードできる側のランナーでありたいものだ。

建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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