東京の三宅島では、観光客がスマートフォンを片手に散策する姿が目立つようになった。観光案内板は島内に6つ。そこに近づくと、スマホに地図データや案内情報が自動で送られる。野原産業と東京都三宅村が共同で6月からスタートさせた試みだ。観光客をもてなす仕掛けとして、村の期待は大きい。野原産業にとっても、新たなビジネスチャンスの糸口として、このプロジェクトにかける思いは強い。
野原産業は建材商社だけでなく、道路標識メーカーの顔も併せ持つ。事業規模は売上げの1割だが、道路標識業界ではトップの販売シェアを誇る。近年、三宅村への製品提供が続く中で「観光客の満足度をもっと高めたい」という職員の声を聞いた。
島内には観光案内所が1つしかなく、十分なサービス提供ができない。何か手だてはないかと探しているところにタイミング良く提案した。同社都市環境事業部企画開発部の安田英明担当課長は「ソーラー照明を売り込むため、通信との連携を模索し、技術開発を進めてきた」と語る。
ビーコン内蔵のソーラーパネル付き小型LED照明『サンイーライト』 |
同社の販売するソーラーパネル付き小型LED(発光ダイオード)照明『サンイーライト』は、東日本大震災を教訓に製品化した。電源が近くになくても、案内板に夜間の照明を確保できる。着目したのは機器の中にビーコンを内蔵させ、そこから信号によって関連情報を発信する仕組みだった。具体的には、専用アプリケーション『hubea』をインストールしたスマホが対応するビーコンに近づくと、指定した情報を自動的にキャッチするものだ。
村の反応は、予想以上だった。野原産業が機器類の提供から設置までを無償で行うこともあり、提案した日に村長の耳にも伝わり、共同実験のスタートがすぐに決まった。2015年度に導入効果を検証し、16年度から本格導入に踏み切る考えだ。設置したのは6カ所。太陽が当たらない場所にある売店前の案内板だけは電池式を採用した。
「ビーコンはもはや一般的な通信ツールだが、電源を確保しにくいため、その多くは屋内が中心。ソーラー照明とのセットによって、先んじて屋外での利用にチャレンジできた意義は大きい」(安田担当課長)。信号は最大20m周辺でキャッチできるように設定しており、利用者は地図を含む観光案内の情報を得られるだけでなく、万が一に備えて避難経路や安否確認にも活用できる。村や観光客の評判も上々だ。
「実は、東京五輪をにらんでいる」と、同事業部企画開発部の奈佐晃司部長は明かす。三宅島を足がかりに、伊豆諸島の別の島にも導入を呼び掛ける予定だが、技術開発のターゲットは当初から東京五輪を見据えていた。
都が描く外国人が快適に滞在できる東京のイメージ(東京都長期ビジョンから抜粋) |
JRや地下鉄の駅前など都内には歩行者用観光案内標識が約1000カ所存在する。東京都では訪日外国人観光客の増加を見越し、さらに600カ所程度に案内標識を増やす見通し。都長期ビジョンでは外国人が快適に滞在できる東京の姿として、無料Wi-Fiの環境整備に加え、ネットワークに接続した画面で映像や情報を表示できるデジタルサイネージの普及を描いている。
「三宅島のように、東京でも街を歩きながら、案内板に近づくと、周辺の情報が自動的にスマホに送られる仕掛けを提供したい。発信する情報を多言語で用意すれば、日本のおもてなしも具現化できる」(奈佐部長)。三宅島に設置したサンイーライトは、脚立とドライバー1本で設置できる手軽さも強みだ。いまはビーコンを後付けする特注品で対応している。安田担当課長は「五輪開催が近づき、需要が現実のものになれば、モデルチェンジも行っていきたい」と先を見据える。
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