倒壊しない建築はあり得ない--埼玉大学大学院理工学研究科で地震工学を研究する齊藤正人教授=写真=は、「絶対にないことはない」という不確実性を前提としたレジリエント構造の必要性を強調する。「ゲリラ豪雨や地震など、いつか来ると分かっていながら対応が後手に回っている災害は多い」とし、倒壊や浸水といった災害被害を前提とした設計「プログラマブル・ストラクチャー」が必要と語る。
齊藤教授はこれまでの地震工学について、「地震によって構造物が破壊することを想定した設計をしないため、倒壊後に生じる危険を検討する場は極めて少なかった」と課題を指摘し、「人的被害の抑制や早期復旧の施策を考える必要がある」と力を込める。
ワイヤーデバイスによる倒壊方向の制御 |
豪雨や津波といった水害に対しても、自動で災害を検知して建物への浸水を阻止する「フローティングウォール」を開発した。浸水による浮力を利用して止水板を設置する。「発災時にあらかじめプログラムされた動作を行う機能を持たせることで、災害に対し、先手を打つことができる」と施設そのものが災害への初動対応を担う可能性を示す。その上で、「耐震・地震・河川・道路などの細分化した専門分野を横断する新しい産業・研究分野を生み出したい」と期待を語る。
多くの一般市民が求めるのは建物が絶対に壊れないという安心感だ。しかし、設計段階から全ての被害を考慮するのは事実上不可能である。「建物の強度を上げるだけでは災害とのイタチごっこになってしまう。硬く強い災害対策だけでなく、壊れた時のことを考えた対策があっても良いのではないか」とレジリエント構造の新たなあり方を示唆する。
構造物の倒壊方向が及ぼす影響 |
課題はあるが、将来的には地震によって生じる交通網の混乱を前提とした道路や標識の整備などを含めた都市全体の「プログラマブル・シティー」にまで拡張したいと意気込む。「街全体として予想外の災害に対する初動対応の遅れや想定外の被害による思考停止を防ぎ、初動対応から混乱を最小限に抑えたレジリエントなまちづくりができるのではないか」と。
今後は具体的なシステム開発や実証実験による地域の防災性向上の効果を確認する方針で、埼玉県や地域住民と協働したプログラマブル・ストラクチャーの実装を視野に入れている。「国土強靱化にはいろいろな視点があって良い。倒壊しないように設計しながら、倒壊方向のコントロールや倒壊しても安全な場所を確保するといった、復興を取り入れた視点からの設計も必要だ」と力を込める。
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