2015/10/03

【現場最前線】省力化・工業化・ICT活用で遅れを取り戻せ! 九州がんセンター新築現場


 1972年に九州で唯一のがん専門診療施設として開設された国立病院機構九州がんセンターは、がん医療に対する総合力を強化するため、2016年2月の開院を目指して全面建て替え工事を進めている。建築施工を担当する戸田建設の藤本正洋作業所長は、「着工後に顕著化した労務、資機材不足の中での生産性向上が課題になった。安全性を確保しながらより最適な効果を得られるよう、他産業の分野にも情報収集のアンテナを張り、新しい仕組みを取り入れることで乗り切ろうと考えた」と振り返る。

 当初、工程の遅延日数はひっ迫していた躯体工事関連の労務事情から、120日程度と想定された。しかし、「これだけの遅延を省力化だけでカバーするのは困難」と考え、施主や設計事務所、協力会社の思いを集約する仕組み(セカンドオピニオン)の構築、正しい情報を共有する仕組み(インフォームド・コンセント)の構築、また工業化工法への変更・採用にも理解を求めた。これらは「根拠に基づいた明確な現場方針を示し、働くすべての人のベクトルを1つにする」という想いの現場スローガン『エビデンス・ベースト・コンストラクションプラン』に基づいている。
 工程計画では、20項目に及ぶ省力化・工業化工法により、130日の短縮を目指し、124日の短縮を実現した。基礎工事では発生土の処理方法改善、PC化の拡大、鉄筋工事では先組みの範囲をハンチ梁やT字梁、パネルゾーンにまで拡大した。
 安全面ではフェールセーフの考え方を取り入れ、バディシステムを実践している。バディシステムは、1人作業による不安全行動の排除を目的とし、言葉の使いやすさから採用された。グループやエリアでバディ(信頼できる相棒)を組み相互に声をかける。「社員だけでなく、現場に入場する皆が同じ目線で取り組めば、より効率的でスムーズな展開ができる」と手応えを感じている。

プロジェクションシステムにより、現地で複数人が同時に確認作業ができる

 ICT(情報通信技術)も積極的に活用している。ポケットプロジェクターを用いたプロジェクションシステムを導入しており、図面を持ち運ばずに大きく映し出すことで、現地で複数の人とも同時確認作業ができる。また、バーチャルリアリティーも組み合わせ、関係者との共通認識向上に役立てている。これからは一方通行になりやすい会議の場でリアルタイムにツイートできる仕組みの構築にも取り組む考えだ。マンネリ化しがちな朝礼では、仮想現実を現実世界に反映するAR(拡張現実)システムの導入によって、作業員に対して視覚的によりインパクトのある『記憶に残る朝礼』の実現に向けて検討を進めている。
 BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)も導入、設備や外構を含んだ統合モデルを構築し、設計確認や干渉チェックなどに役立てている。建物のCT動画や透視パースなども関係者全員と情報を共有している。「今後は時間軸、コスト軸を加え、工程管理やコスト管理ができるようにして施工のメリットを見いだしたい」考えだ。
 これらの省力化工法の採用と生産性向上の因果関係を検証するため、店舗の売り上げ要因の推測などに用いられる重回帰分析にも挑戦している。藤本所長は、「省力化で作業効率は上がるが、その計画作成や管理などで社員の負担が増える傾向にある。社員の負担軽減と省力化を両立させて、真の生産性向上につなげたい」と意欲を見せる。
 
■工事概要
▽工事名称=九州がんセンター新築工事
▽建築主=独立行政法人国立病院機構九州がんセンター
▽設計・監理=日建設計
▽施工=戸田建設(建築工事)、テクノ菱和・大成温調・クリマテックJV(機械設備工事)、九電工・きんでんJV(電気設備工事)
▽構造・規模=RC造7階建て延べ3万4155.75㎡(免震構造)
▽工期=2013年9月13日-15年11月30日
▽建設地=福岡市南区野多目3-1-1
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