大きな被害をもたらした1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災を教訓として、全国的に地震や津波対策が進められているが、関西では南海トラフ巨大地震の発生が懸念されるため、産官学が連携してその対策を急いでいる。東日本大震災発生から5年間の取り組みや、最近の震災対策に関する事例などをまとめた。
写真は大阪府の木津川水門。津波の浸水を抑えるため「粘り強い構造」の対応を進めている。
近畿地方整備局は、南海トラフ巨大地震など大規模地震が想定されている地域において、ハード・ソフトが一体となった防災・減災対策を進めている。紀勢自動車道や北近畿豊岡自動車道など、被災時に迅速な救助・復旧活動を支援する防災上、重要な役割を果たす道路整備を各地で展開している。
近畿ブロックの社会資本整備重点計画によると、切迫する巨大地震・津波への備えとして、インフラの耐震化や計画高などの整備率(KPIによる指標)を、河川堤防で20年度までに約89%(14年度で約71%)、海岸堤防を約42%(約31%)、水門・樋門を約97%(約38%)に設定した。
ソフト対策では、最大クラスの津波に対応したハザードマップを策定・公表し、住民の防災意識向上につながる訓練を実施した市町村の割合を20年までに100%にする目標も掲げている。
また、東日本大震災で道の駅が果たした機能を考慮し、同局と和歌山県、県紀南地域の市町村の間で、同地域にある道の駅21カ所について、防災利用に関する基本協定を昨年11月に結んだ。相互協力のもと、有事の際には災害復旧や救助・救援活動を迅速に行う。
◆津波から避難できない地域の対策
和歌山県は、南海トラフ巨大地震によって発生する津波が到達するまでに安全な場所に避難できない地域(津波避難困難地域)が存在するため、津波から住民の命を守り、死者をゼロとすることを目指している。14年度には「津波から『逃げ切る!』支援対策プログラム」を策定し、堤防整備や港湾・漁港の既存施設のかさ上げ、避難路拡幅などの強化対策を実行している。民間住宅や宿泊施設に対しては全国トップレベルの補助制度で耐震化の促進を図っている。
そのほか、国内自治体で初めて津波予測情報の提供を開始。16年度からは津波災害復興計画の事前策定にも着手するなど先進的な取り組みを進めている。
県の鳥羽真司総務部危機管理局防災企画課副課長は「東日本大震災の教訓をわがことのように受け止め、真摯に取り組んできた。これからも着実に実行し、『死亡ゼロ』を達成したい」という。
大阪府は13年に南海トラフ巨大地震による府内の津波浸水や建物被害について独自の想定を取りまとめており、これに基づいて各部局が対策を進めている。
この想定では、最大で府域の1万1000haが浸水する可能性が指摘されており、今後は構造物の「粘り強い構造」化などの早急な対応を図っていく。対策を実施すれば浸水域を5400haまで抑えることができるとし、その対策事業費は概算で約2100億円を見込んでいる。
都市整備部では、地震防災アクションプログラムを策定して対策を進めており、なかでも防潮堤の液状化対策に重点的に取り組んでいる。このうち人命への影響が大きい個所8.7㎞は16年度に対策を終える予定で、防潮堤を含む津波浸水対策は23年度末までに完成させる。このほか、広域緊急交通路の橋梁は20年度、鉄道の耐震化は24年度までに終える計画だ。
兵庫県は、12年度から津波の被害想定に着手し、13年12月から14年2月にかけて県内各市の想定津波高と到達時間、浸水面積などをまとめている。
15年6月には防波堤や水門、緊急避難路の整備計画を盛り込んだ「津波防災インフラ整備計画」と県民と行政による災害対応力向上に向けた取り組み、被災生活や復旧復興体制構築の支援策などを示す「南海トラフ地震・津波アクションプログラム」を策定した。
1月には兵庫県強靱化計画もまとめ、強靱化に向けた今後の目標と推進方針を定めている。県企画県民部防災企画局防災企画課防災計画班の藤原大輔班長は「東日本大震災からは『想定外は許されない』ということを学んだ。これからも県民の命と生活を守るためハード・ソフト対策に力を入れていく」と語る。
【自治体などの動き】
■関係自治体らと協力・連携(道路会社)
緊急時の貴重なアクセスを担う西日本高速道路会社と阪神高速道路会社は、高速道路の耐震化を進めているほか、関係する自治体や建設関連団体、自衛隊などと相互協力や連携に関する協定を結んでいる。これにより、災害発生時にはパーキングエリア(PA)やサービスエリア(SA)を防災拠点などとして活用できるほか、スムーズな緊急車両の通行や情報提供が行える体制を整えている。
■咲洲庁舎の長周期対策(大阪府)
大阪府は、15年12月に内閣府がまとめた長周期地震動に関する報告を受け、咲洲庁舎(52階建て、延べ14万9323㎡)での対策について技術的助言を得るための「咲洲庁舎の長周期地震動対策に関する専門家ミーティング」を設置している。今後、5月ごろまでに同地区地震動の解析結果をまとめて第2回会合を開き、3回目では対策に関する各種工法について検討。夏ごろに開く4回目で具体的な対策をまとめる方針だ。
■浸水域4分の1に(大阪府・市)
南海トラフ巨大地震による津波浸水想定では、最悪の場合は大阪市域の3分の1が浸水することが懸念され、此花区など大阪湾に近い西部だけでなく、JR大阪駅周辺など都心部でも浸水するという。このため、大阪府と大阪市の港湾・河川部局は連携して液状化対策を急いでおり、10年程度での整備完了を目指している。これらの対策が完了すれば、市内浸水想定面積は約7100haから約1900haに低減できる見通しだ。
■国土強靱化計画を策定(和歌山県)
和歌山県は15年9月に国土強靱化計画を策定。早期避難のための情報伝達体制構築や訓練、港湾・漁港にある既存施設のかさ上げや避難路の整備といったハード面にも注力する方針を示している。
24年度までに県内の6港湾10漁港のかさ上げを完成させ、公立学校の耐震化を16年度中に完了。一般住宅や避難所機能を持つ大規模建築の耐震化も20年度時点で進捗率95%を目指している。
■津波防災インフラ整備計画(兵庫県)
兵庫県は、15年6月に津波防災インフラ整備計画を策定した。発生頻度が高いレベル1地震動による津波に対しては越流防止(淡路島南部を除く)、最大クラスのレベル2地震動による津波には浸水被害低減を目指す。
レベル1津波対策では防潮堤・河川堤防整備、水門の高さ確保など、レベル2対策では防潮堤や河川堤防の越流・引波対策と沈下対策、防潮水門の移設を含む耐震対策などを実施。18年度までに大半のレベル1津波対策とレベル2津波対策の防潮水門移設・耐震化を完了させる。
■紀伊半島アンカールート(奈良県)
奈良県は、災害に強い紀伊半島の実現に向け、被災地域の孤立や物資輸送・救急活動ルートの分断を防ぐ「紀伊半島アンカールート」の整備促進を重要施策に位置付けている。
未事業化区間については、国道168号で災害が多発した十津川道路II期および冬期間の最大の難所となる新天辻工区、国道169号の新伯母峯トンネルについて、権限代行による早期事業化を国に強く要望している。
■建築物耐震改修促進計画(京都府)
京都府は、南海トラフ地震や直下型地震による甚大な被害を軽減するため、今年度内に「京都府建築物耐震改修促進計画」を策定する。25年度末の耐震化率として減災化住宅97%、うち耐震性を満たす住宅95%を目標に、幅広い施策に取り組む。住宅の耐震化は各地域の特性を踏まえて実施する。特に伝統的な町家や古民家については、伝統構法に対応した耐震診断手法や改修工法を実施し、京都らしい施策を進める。
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