2016/03/26

【マーケット断面】戸建てが5階建て時代へ ハウスメーカーとゼネコンが市場交錯


 戸建て住宅の中層化に向けた取り組みが活発になってきた。ハウスメーカー各社には5階建て以上の実現で、顧客層の幅を広げる業容拡大の狙いがある。ただ、階高の引き上げはものづくりのあり方も従来と異なり、建設会社との受注競争に発展する可能性も秘めている。都心部を中心に広がる住宅中層化マーケットはどう動こうとしているか。
 写真は5階建てモデルルームが建ち並ぶ東京・高島平の総合住宅展示場。

 ハウスメーカー各社の5階建てモデルハウスが建ち並ぶ東京・高島平の総合住宅展示場。2016年初にグランドオープンし、正月2日間と翌週末2日間で400人もの来場者であふれた。「ここが5階建ての主戦場になる」と、ミサワホームの営業担当者が意気込むように、各社が一斉に5階建ての中層商品を投入し関心を集めた。
 総務省の住宅・土地統計調査によると、この10年間で3階建て以上の住宅ストックは4割近く増加した。全戸建ての住宅ストック増加率が8%にとどまることからも、その成長の度合いがわかる。敷地面積が限られる都心部を中心に、土地を有効活用できる中層住宅の建設ニーズが増えていることが要因の1つ。少子化対策の一環で、2世帯、3世代同居を後押しする政府方針も都市部の中層化ニーズを後押しする。

ミサワホームでは初の重量鉄骨5階建てプランを展開する

 これまで積極的に開拓してこなかったミサワホームでは5階建ては特殊建築扱いで、受注件数も年間30棟程度しかなかった。4月に市場投入する新商品は同社初の重量鉄骨造の耐火5階建て。消費者のニーズを把握するため、高島平の展示場に5階建てモデルルームの出展を決めた。同業他社も相次ぎ新モデルルームを投入し、一気に熱気を帯び始めた。
 5階建て住宅の多くは、低層部に店舗や賃貸住戸を併用した複合プランが中心になる。建設には容積率で300%の土地が多くなり、防火地域向けに耐火構造の対応も求められる。木造構造ではその対応が難しく、各社とも重量鉄骨造のプランで市場開拓を目指す。同社がモデルハウスの施工を、介護福祉施設や商業施設などを手掛けるミサワホーム建設(東京都杉並区)に依頼したように、建設には建築のノウハウが強く求められる。
 メーカーが狙うのは敷地規模で80㎡前後。商品プランは5階建てを中心に取りそろえているが、場合によっては6階建て以上の要求も出てくる。「中層化になれば、建設会社との受注競争も出てくる」と身構えるハウスメーカーの営業担当者は少なくない。商品ブランド力と幅広い営業力でメーカーに勝算はあると分析するが、「従来の戸建て市場に比べ、ライバルは確実に増える」ことは確かだ。
 つくば市の建築研究所敷地内では、ツーバイフォー6階建ての実大実験棟が完成間近だ。国が再生可能な循環資源である木材の利用を促進しようと、木造6階建て実現に向けたリーディングプロジェクトに位置付け、日本ツーバイフォー建築協会(市川俊英会長)が建築研究所と共同で実験棟建設に乗り出した。

西武建設が施工するツーバイフォー6階建ての実大実験棟

 4階建ての木造は存在するが、5階建て以上は2時間耐火構造の認定が必要になり、合わせて高耐力壁の開発も求められる。既に間仕切り壁と床は2時間耐火構造の仕様が認定され、実験棟では外壁の認定にも結びつける。中層化による鉛直荷重や開口部の風圧が増加し、その対策を講じる必要性もある。
 実大実験棟建設に着手したのは15年10月。基礎工事に1カ月ほどを費やし、同年12月から建て方をスタート、年明けからは並行して内装工事も進めてきた。施工を担当したのは西武建設。大型木造建築にも力を注ぎ、戸建て部門を組織していただけに、実験棟建設工事に応札して見事に落札した。協会は「2時間耐火や耐力壁の技術的な部分だけでなく、建て方の精度や安全管理の検証もしたい」と、施工者から建設業のものづくりを学ぶ狙いがある。
 国を挙げて木造建築を推進するカナダでは09年から6階建ての道筋が整い、住宅だけでなくホテルや商業施設などの建築にも木材利用が進んでいる。市川会長は2月に開かれた実験棟の説明会で「1年もしくは2年後には日本でも6階建ての実用化に持っていきたい」と強調した。2日間の説明会には住宅業界の関係者を中心に延べ400人の見学者が訪れた。
 住宅業界にとっては、業容拡大につながる木造6階建ての道筋だが、関係者からは「ゼネコンを含め建設会社の参入もあり、中層住宅の受注競争は激しさを増すだろう」との声も聞こえてくる。
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