震災から5年。死者993人、行方不明者152人、住宅全壊2957棟という甚大な被害を受けた岩手県釜石市では、いまも市内の仮設住宅に3652人(2月29日現在)が暮らす。一方で恒久住宅となる復興公営住宅の整備も加速、2月1日時点で計画戸数1314戸のうち、35.2%に当たる462戸が完成し今後、「2016年度内での100%完了」(野田武則市長)を目指す。こうした中、被災者は生活再建に向け新たな課題にも向き合い始めている。
写真は平田第6仮設団地でバリアフリーのために設置されたウッドデッキ。
全240戸のうち、156戸、計324人が入居する平田地区の「平田第6仮設団地」。自治会長の森谷勲さんは発災直後から仮設住宅での暮らしを余儀なくされ、その後、平田第6仮設住宅に移り住んだ。この5年間について「国では当初、仮設暮らしは2年と言っていた。3年ぐらいは覚悟していたが、5年は長すぎた。いつになったら安定した生活ができるのか」と心情を吐露する。自治会副会長の佐々木新治さんも「ここ2年間はだらだらしていた。自分を持続させるには惰性しかなかった。震災は忘れてはならないと言うが、われわれは忘れたふりをしないと前に進めないこともある」と胸の内を明かす。
玄関を向かい合わせにすることで、住民が顔を合わせやすくする |
平田第6仮設団地では設計段階から東大や岩手県立大の支援を受け、居室の玄関を向かい合わせにするなど、住民同士の交流を促す工夫が施された。森谷さんは「朝晩の人の出入りが目に入り、声を掛けやすい。また、支援団体がイベントを開いてくれるのでこれに参加することで住民のコミュニティーがつくられている」という。一方で、復興公営住宅に移り住む人や、自力再建を目指しての転居も相次ぎ、「せっかく親しくなった人も出て行ってしまう」とも。
佐々木さんも「早くここを出たいというのが本音。ただ新しいところに移り住んでコミュニティーができるかどうかもみんな心配している」と話す。実際に移り住んだところになじめず、仮設住宅に戻ってきた住人もいるという。
敷地内のサポートセンター。診療所やデイサービスなどのサービス拠点として整備された |
そのため、「新しい住まいに移って自立できるように、隣人へのあいさつやイベントの参加などを通じて、ここでコミュニティー形成に加わる練習をしてほしい」と森谷さんは語る。「自分から望まないと世界は広がらない」と佐々木さんも住人一人ひとりの積極性が重要だと説く。
野田市長は、復興のためには「被災した人の住まいの再建が第一だ」と強調。そのためにもハードの整備を急ぐとともに、「自治会などをつくって息づかいの感じられるコミュニティー形成に力を入れたい」と心身のケアも含めたきめ細かな被災者支援の必要性を語る。
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