中央開発はことし2月、創業70周年を迎えたが、これまで記念誌をつくったことがない。今回は制作するが、それに先駆けて本書を出版した。著者は、「先輩やOBなどと飲むと、おもしろい話がたくさんある。記念誌には入れられないエピソードなどを集めて残したかった」と狙いを説明する。事実を正確に記録しておく正史も重要だが、付随的な話を収録した外伝はぬくもりを持ち、息づかいが感じられ、読み物として興味深いだけでなく、後進に対し説得力のある教訓にもなる。
書店にも並ぶため、一般の人に手にとってもらい、地質業界に関心を持ってほしいという思いから、専門用語は下段に解説を加え、分かりやすい表現を使い、図や写真などを多用して、ビジュアルな仕上がりになっている。臨場感を出すことと、かつて高視聴率を誇ったテレビ番組『プロジェクトX』を意識して、事業に携わった社員は実名でコメントしている。
得意とする海底の地盤調査は、「海は特殊だから失敗が多かった」が、失敗を元に改良を重ねた。その結果、30m以深の調査は同社が開発した傾動自在型試錘工法しかないという地位を確立することができた。海底の調査は最近、港湾建設や活断層調査などで増えているという。
活字にしにくい出来事もあり、2度の危機に見舞われた海外事業だが、今後を見据え章を立てて取り上げた。「アジアは先行する各社がいた」ことから、当初は中南米やアフリカの仕事を手掛けた。海外事業はリスクが多く、採算性も悪いが、創業者瀬古新助と二代目隆三の執念で継続している。
ただ、目先の利益だけでなく、「海外は日本より技術的に先行している。世界の最新技術を取り入れることができるし、新しい技術であっても担当者の独断で採用してくれる」と指摘。十年一日のごとしの国内だけにとどまっていれば、世界から置いていかれ、次の80年、その先の100年に向けた会社の発展は見込めないという危機感がある。「海外はやる価値がある」と強調する。
瀬古一郎中央開発社長 |
これまで10年ごとの節目には、技術論文集や社内報の特集号を発行してきたが、今回は70年誌を刊行する。「教訓や失敗も入れる。おもしろいところもピックアップする」。内容が楽しみだが、最近終わったばかりの業務や実施中の仕事が含まれているため、外に公表するには発注者の承諾が必要なことから、残念ながら配布は内部に限定となる。
タイトルの“土と水”は、創業者の3冊の著書に使われていた題名を継承した。含水量で土の性状が変わるため、土と水が仕事の産みの親であり、会社の歴史そのものという思いもある。ダムを調査・設計から施工管理まで手掛けたプロジェクトは与布土(よふど)ダムしかないが、地盤調査だけでなく最後まで携わりたいという強い願望を実現できたことから、第四章ではダムを取り上げている。最終章は、今後の展開としてジオパークへの取り組みや土壌汚染対策、地下水の活用などに触れている。
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