富山県建築士会(中野健司会長)は、県内の建築技能の継承や生産システムの変遷などを建築職人へのインタビューを軸に編集した書籍『建築職人アーカイブ』を発刊したのを記念して16日、富山市内でシンポジウムを開いた。職人や建築家などが「職人技術のゆくえ」をテーマにパネルディスカッションした=写真。
発刊した冊子は、「富山の住まいと街並みを造った職人たち」をサブタイトルに、大工や左官、建具、畳などの県内在住の建築職人78人と専門職種の団体代表16人へのインタビューで構成。道具や施工事例の写真なども織り交ぜ約200ページにまとめている。職人へのヒアリングでは入職のきっかけや修業時代の苦労話、仕事への思い、技能・技術の変遷などを聞き出している。
建築職人の高齢化や入職者の減少で技能・技術の継承に危機感を抱いた同士会が、2012年に創立60周年を迎えたのを機に、記念事業として職人の現況や技能の伝承などの調査に着手。インタビューを重ねながら3年にわたり会報に連載してきた記事を冊子として再構成したもので、戦後の建築技術・技能の変遷史としても読むことができる。
シンポジウムでは冒頭、中野会長が書籍発刊とシンポ開催の趣旨について「建築に関係するわれわれ自身の足元を見つめ直し、建築職人のあり方を問い直すために企画した。建築をめぐる状況を地域の方々と共有していきたい」とあいさつ。冊子編集作業の報告に続き、建築家の近江美郎氏が「つなぐ職人技」をテーマに基調講演した。
パネルディスカッションでは、職人のほか建築家や元請けである工務店の代表者らもパネリストとして意見を交わした。伝統技能の継承が困難になってきていることについて、ライフスタイルの変化や建築主の「早く安く、という価値観」の普及がその背景にあるとの指摘が出された。素材へのこだわりや他業種とのコラボレーションによる付加価値化で職人も時代の変化に対応していくべきとの声も上がった。建築主と現場との接点がないことに懸念が示され、建築主と職人とのコミュニケーションが課題解決のかぎになるとの見方が示された。
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