2016/03/31

【富士山世界遺産C】坂茂氏「来場者に驚きを」 〝逆さ富士〟から着想した逆円すい型


 富士山の魅力を世界に発信するための拠点施設「富士山世界遺産センター(仮称)」が24日、静岡県富士宮市で着工した。富士山に関する芸術作品を紹介する展示室などを設け、世界文化遺産の富士山の価値を発信する。設計を担当する建築家の坂茂氏は「シンボル性を重視して設計することが求められたが、富士山の形を真似しただけでは絶対に本物の富士山のデザインには勝てない。象徴的に富士山の姿を見せる必要があった」と設計の検討過程を振り返る。建物の背後に実物の富士山がある以上、「富士山のような建築」というだけでは来場者の心に残る建築は実現できない。「形の遊びではなく、意味のあるデザイン」を目指したという。

 その結果が、逆円すい型の異様ともいえるデザインだ。建物の前に水盤を設置し、水に映った姿を見せることで来場者は水面に映る「富士山」の姿を目にすることになる。「湖面に映る『逆さ富士』から着想を得た。水に反射した姿を見ることで、間接的に富士山を感じてもらいたい」という。水の反射は天候の影響も受けるため一度の訪問では水面の富士山に気付けない可能性もあるが、「来場者が後から振り返って水の反射に気付くこともできる。多くの来場者に驚きを味わってほしい」と設計に込めた思いを語る。

らせん状の斜路で登山を疑似体験

 施設内部にも「富士山」の存在を間接的に感じる工夫を凝らしている。エレベーターコアを中央に据え、その周囲を囲むように展示室を設けた。「斜路に沿って内部を昇りながら富士山について知る行為は、富士山を登ることの疑似体験になっている」という。らせん状の斜路を昇り詰めた先には、富士山を一望できるピクチャーウィンドウを設置した。「内部では本物の富士山を隠し、富士山について学びながら最後まで登り切った先に感動とともに本物が見える驚きを提供したい」と話す。

坂茂氏

 大きな特徴である表面を覆う木材は環境への配慮に加え、「経年変化によって表情が変わり、建物の歴史を感じられる」点を高く評価して選定した。長い年月にわたって日本人に愛されてきた富士山と同じように、「木材が変化して歴史が刻まれることを期待している」という。
 完成は2017年7月を予定している。「富士山が日本の文化・信仰を象徴していることを世界中の人に知ってもらい、皆さんに末永く愛される施設になってほしい」と考えている。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 伊東豊雄氏設計のヤオコー川越美術館がオープン 「表裏のない美術館」(伊東氏)  スーパーマーケットを展開するヤオコー(埼玉県川越市)が、創業120周年記念事業として計画した「ヤオコー川越美術館(三栖右嗣記念館)」が11日、オープンした。設計・監理は伊東豊雄建築設計事務所、施工は大成建設が担当した。オープンに先立ち、セレモニーや内覧会が同日行われた。この中で川野幸夫館長(ヤオコー会長)は、三栖絵画との出会いや同社とのかかわり、伊東豊雄氏と知り合えた幸運などを振り返り、「とてもすばらしい施設が完成した。ヤオコーにふさわしい… Read More
  • 「ねぶたの家ワ・ラッセ」など4作品 建築学会東北支部の「東北建築賞」が決定 ねぶたの家ワ・ラッセ  日本建築学会東北支部(田中礼治支部長)の主催による2011年度(第32回)東北建築賞が決まった。作品賞は一般部門が「鶴岡まちなかキネマ」「ねぶたの家ワ・ラッセ」「村山市総合文化複合施設・甑葉プラザ」「水の町屋七日町御殿堰」の4作品、小規模建築物部門は「森を奔る回廊」「新田の家」「長楽寺禅堂」の3作品が選ばれた。このほか、特別賞は2作品だった。表彰式は6月16日に八戸グランドホテル(青森県八戸市)で開く「みちのくの風2… Read More
  • プリツカー賞2012に中国のワン・シュウ(Wang Shu)氏/中国人として初の受賞 Xiangshan Campus, China Academy of Art, Phase II 2004-2007 Hangzhou,ChinaPhotos by Lv Hengzhong, Courtesy of Amateur Architecture Studio  米ハイアット財団は、2012年プリツカー賞の受賞者に、中国人建築家のワン・シュウ(Wang Shu)氏を選んだ。中国人として初の受賞となる。5月25日に、中国・北京市で… Read More
  • 山嵜一也の寄稿コラム「書を読み 海を渡れ」 欧州大陸へと続くユーロスターの発着するセントパンクラス駅  ソトに広がる世界から、ウチなる自分を見つめるということ/オイゲン・へリゲル著の『弓と禅』  英国で日本人がシンプルなデザインを出すと「Zenだね」と言われる。当初は皆良く知っているなと思っていたが、なんのことはない。日本食ブーム同様、流行としてミニマル、白と黒があれば「禅」があると思っている。  だからこそ、アジア人として上っ面のデザインを避けるべく本書を何度も読み返す。著者は日… Read More
  • 23回JIA新人賞受賞者インタビュー 「フラワーショップH」の乾久美子氏、「ヨコハマアパートメント」の西田司氏・中川エリカ氏 乾久美子氏  日本建築家協会(JIA)の第23回JIA新人賞に、「フラワーショップH」を設計した乾久美子氏(乾久美子建築設計事務所)と「ヨコハマアパートメント」を設計した西田司氏・中川エリカ氏(オンデザインパートナーズ)が選ばれた。3氏に受賞作のポイントなどを聞いた。 ◇ビル群と公園「境界の解」 乾久美子建築設計事務所 乾 久美子氏 「フラワーショップH」(日比谷花壇日比谷公園店) フラワーショップH・撮影:阿野太一  「周りから… Read More

0 コメント :

コメントを投稿