BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を軸としたワークフローの確立に乗り出す日本設計が、着々とシステム環境を整えている。建築設計群主任技師の吉田秀樹氏は「これまで手入力で対応せざるを得なかった情報の変換ロスを解消できた効果は大きい」と手応えを口にする。これはBIMに取り組む設計者共通の課題でもある。日本設計の試みにスポットを当てた。
基本計画から基本設計を経て、実施設計へと進む業務のワークフローにBIMを全面展開する場合、情報を次のフェーズに引き継ぐ際に生じる変換ロスをどう解消するか。ソフトウエア間のデータ連携は、BIM効果を最大限に引き出す上で乗り越えなければいけない課題の1つだ。設計者ごとに愛用する設計ツールが異なるだけに、カスタマイズの方法にも独自性が見え隠れする。
統合モデルを軸に各業務をつなぐインテグレイテッドBIMの確立を目指す日本設計では、オートデスクのBIMソフト『Revit』(レビット)を中心に設計ワークフローを組み立てている。設計初期の基本構想や基本設計の段階は、ハンドリングのしやすい3次元モデリングツール『Rhinoceros』(ライノセラス)を使い、実施設計からレビットにデータを引き継いでいる。
BIMデータを引き渡す際、DWG形式ではモデル形状の崩壊や各種部材のマスボリューム化が起きてしまい、付加した情報が消滅する不具合も生じていた。この部分の変換ロスを、同社は手作業で補っていた。改善に乗り出したのは1年ほど前。高度な3次元モデリングノウハウを持つディックス(名古屋市)が協力し、自動処理コンバータ『+ant sat』を共同開発した。
いくつかの3次元ファイル形式を検証する中で、sat形式はマスボリューム化や付加情報の消滅を引き起こすものの、モデル形状の崩落だけは見られなかった。この特性を手掛かりに改良を重ね、部材ごとにモデル化する処理により、マスボリューム化を防ぎ、付属の情報も連動して引き継がれるような仕組みを確立した。吉田氏は「変換後のデータも編集できるようになり、実務でも使えるようになった」と強調する。
このほかに設計初期段階では、顧客に具体の設計プランを提示する有効なツールとしてエーアンドエーの『Vectorworks』(ベクターワークス)も活用している。「レビットでBIMモデルを統合管理する際、部屋情報の管理が不可欠になるが、ここでも変換ロスが生じ、手作業で入力をしていた」と、建築設計群の山本圭史氏は説明する。開発したツールによって、30階建て規模のオフィスビルではオペレーターが丸1日かけて作業していた変換作業が、1時間ほどで完了できるようになった。
BIMを導入する建築設計事務所は確実に広がっているが、その効果を十分に引き出すことができず、不自由に感じている設計者は少なくない。それぞれのワークフローに見合ったツールを使ってBIMに挑んでいるものの、細かな部分で生産効率を落としている。日本設計のインテグレイテッドBIMを指揮するプロジェクト管理部副部長3Dデジタルソリューション室長の岩村雅人氏は「実は作業量はBIMを導入した方が増えるのが現状」と本音を明かす。
統合モデルを軸に設計ワークフローを形づくるには、各フェイズで活用するソフトとのデータ連携環境をいかに整えるかが強く求められている。既に同社はアルゴリズム設計から仕様性能を最適化する設備設計を確立するなど着実にBIMワークフローへの転身を図りつつある。意匠段階の変換ロスも解消したが、積算へのアプローチやFM(ファシリティマネジメント)への対応など残された改善テーマは少なくない。
「そもそもBIMは設計業務を効率化する手段ではない。BIMワークフローを確立しても、実は設計作業量は従来と何ら変わらない。ただ、より密度の高い検証ができる点で、設計精度は格段に高まり、より最適な成果を提供できる」と、岩村氏はBIM導入の狙いを説明する。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら
0 コメント :
コメントを投稿