奈良県明日香村で鉄建が施工していた「キトラ古墳周辺地区体験学習館新築工事」が完成した。展示する文化財を守るため、防水性の確保を始めとした強固な躯体づくりに徹底的にこだわり、土木的要素も含めた多様な工法と工夫を組み合わせることで、古代の文化を後世に伝える高品質な施設を完成させた。キトラ古墳周辺地区の中核施設は、今秋のオープンを予定している。写真は奥が本館、地下構造の別館が手前にある。
体験学習館は、古代飛鳥の技術や文化について、見て、聞いて、触れて学べる体験的歴史学習が可能な屋内展示施設として計画。工事は国土交通省近畿地方整備局国営飛鳥歴史公園事務所が発注した。取り外したキトラ古墳の壁画を保存・管理するとともに、さまざま情報を映像や模型展示などの多様な手法で提供する。公募により施設の名称は「キトラ古墳壁画体験館 四神(しじん)の館」に決まっている。
展示室、シアター、ホワイエ、壁画保存管理施設がある本館の規模はSRC造地下1階平屋建て延べ1970㎡、地下構造の別館はRC造489㎡で、体験学習室や事務室、飲食提供スペースなどを配置している。両施設は地下通路で連結されている。設計は宮本忠長建築設計事務所、監理は都市企画設計コンサルタントが担当した。
地下階の工事 |
工事は2014年1月に着手。キトラ古墳にほど近い本館の地盤は軟岩を含むため、同社大阪支店飛鳥作業所の折田新吾所長は「地下階の掘削には苦労した。最初の1年間はほぼ土木工事に近い感覚だった」と振り返る。深さ約9mまで掘り下げるため、切梁を2段にするなど土留めには細心の注意を払った。
壁画の良好な保存環境を維持するため、施設内への水の侵入を防止する高品質な躯体づくりは最重要課題だった。コンクリートの打設に当たっては、成分分離を防ぐためライトウェイトホースによる圧送を採用したほか、透明型枠を使って充填状況を確認した。
打設後は、保水材付きのマットで覆い、十分な湿潤養生を実施した。水平打ち継ぎ部には止水板を使い、「24時間水漏れがないかを確認しながら施工を進めた」(折田所長)など、品質確保には徹底的にこだわった。
別館は上部に土を被せる構造のため、土の荷重に耐える強度と大空間を両立するアンボンドスラブを躯体上部に採用している。折田所長は、「施設規模は小さいが、さまざまな工法が盛り込まれている」と説明する。
明日香村では、建物を建てる際に高さや屋根形状など多くの規制がある。規制は仮設物にも適用されるため、現場事務所の屋根をヨシズ葺きにしたり、仮囲いを透明にしたりするなど、施工中も里山のイメージ保護に努めた。
完成を迎え、折田所長は、「キトラ古墳は知名度も高く、長く使われる施設の建設に携われたことは技術者冥利に尽きる」と笑顔を見せた。
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