【東京大学生産技術研究所教授 沖大幹氏に聞く】
■地球上の水量は不変
地球上の水量は不変で絶えず地球規模で循環しています。地球表層の水の重さは地球全体の5000分の1とされています。その量は約14億km3mで、そのうち2.5%が淡水とされています。利根川など長大な河川でも地表水は3、4日、短い川だと半日で海に流れ着いてしまいます。1カ月雨が降っていないのに川に水があるのは山や森林が雨や雪を蓄え少しずつ地下水を補給(涵養)することで、地下から絶えず水が供給されているためです。降った雨が土壌層から岩帯層に浸み込み、有機物も分解されたり、ろ過されたりしながら数年から数万年の時を経てきれいな水となって地表に流出してくるのです。
水の流れを決めているのが地盤であり地形、地質であるといえます。長い時をかけて水が作った地形の上で私たちは生活しています。地球上に水ができたのが誕生から7-8億年、水循環ができて38億年ですが、土壌と水との相互作用によりさまざまな地形が生み出されており、まさにその形成の途中を私たちは目にしています。山から水によって運ばれた土砂が三角州を形成し国土を広げ、人はそこに都市をつくりました。洪水という危険性をはらんでいるのはそのためです。土砂災害や液状化なども水がもたらす災害といえます。
■地震だけではなく風水害対策は必要
インフラなどの構造物は、世界レベルでみると、風水害被害が重点項目となっていますが、日本は地震が大変多いことから設計外力は地震力となっています。しかし、昨今の大雨を考えると風水害に備えることも重要となってきました。建設現場でも水をコントロールすることが不確実性の大きな要素といえます。
■一定のハード対策も
水循環はコンピューターの高度化、広域観測技術や情報技術の発達によって迅速かつ具体的、精緻に分かるようになってきました。24時間以内であれば大気現象と被害はかなりの精度で予測できるため、いわゆる「タイムライン」などに沿って災害対応がなされるようになりつつあります。昨年の鬼怒川の決壊・溢水もある程度想定されていたため、破堤の日の朝には周辺住民に避難勧告も出て、自治体や消防、自衛隊などでは待機や情報収集など必要な対策をとっていました。しかし、住民の中には堤防が決壊するまで家にとどまっていたため多くの人が家屋などに取り残され、大々的な救出作業が展開されました。死傷者も発生しました。こうした状況に鑑みると、ソフト対策だけではなく堤防の構築など一定のハード対策がやはり根本的に重要であると考えます。
■日本の国土に安全といえる場所はない
自然災害の観点から見ると、日本の国土に安全といえる場所はありません。しかし、場所ごとに「非常に危険」「危険」「ちょっと危険」といったランク分けはできるはずですから、次世代には非常に危険な土地からの撤退を考えることも必要になってくるでしょう。また、土地を選ぶ際には、地歴をみた上で、人命にかかわる災害が発生した場所には住むべきではありません。しかし、生きている間に発生するかどうか分からない災害に対して、備えをどこまでとるのかは個人の自由だという考え方もあり、危険地帯に住むのであれば近隣などに迷惑がかからない最低限の対策はとるべきだと思います。
よく「50年ここに住んでいるけれど初めての経験です」と被災者が話をしているのを耳にしますが、過去100年災害が起こっていないところでも、過去300年を振り返れば発生しているかもしれません。土砂災害に関連する水循環を含めて環境は時々刻々と変化しています。また、力学的にみても地形・地盤は安定を求めて絶えず動こうとしており、大雨や地震による外力が働くと大規模な変化が生じるのは当然です。がけ地や背後に傾斜地がある場合などリスクが考えられる場合には、早めの避難が必須です。
■里山・森林保全で対策も
里山・森林の保全も大切です。昔は薪炭利用などのため絶えず人が森林に手を入れていました。しかし、明治以降、化石燃料に依存するようになって、人が山に入らなくなりました。一見緑に覆われていますが、実際は枝葉が伸び地面に光が届かず、保水力がなくなり大雨が降ると土砂災害のリスクが非常に高くなっている森も多いのです。
水は土壌層でゆっくり水がしみ込み岩帯層に流れていき、山に水を保持する機能を有しています。その際に汚れた水が浄化され、きれいな水が数日から数万年の時を経て豊かな恵みを与えてくれます。しかし、たまに荒ぶるため人に被害をもたらします。そのため、水の流れを的確に予測し、災害に備える1つのツールとして組み入れ、いざという時のためにハード・ソフト両面での備えが必要でしょう。水が土地をつくり土地が水を作っているのです。本来の意味での総合的水資源管理、土地と水の一体的管理こそが有効な防災・減災につながるのではないでしょうか。
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■地球上の水量は不変
地球上の水量は不変で絶えず地球規模で循環しています。地球表層の水の重さは地球全体の5000分の1とされています。その量は約14億km3mで、そのうち2.5%が淡水とされています。利根川など長大な河川でも地表水は3、4日、短い川だと半日で海に流れ着いてしまいます。1カ月雨が降っていないのに川に水があるのは山や森林が雨や雪を蓄え少しずつ地下水を補給(涵養)することで、地下から絶えず水が供給されているためです。降った雨が土壌層から岩帯層に浸み込み、有機物も分解されたり、ろ過されたりしながら数年から数万年の時を経てきれいな水となって地表に流出してくるのです。
東京大学生産技術研究所教授 沖大幹氏 |
水の流れを決めているのが地盤であり地形、地質であるといえます。長い時をかけて水が作った地形の上で私たちは生活しています。地球上に水ができたのが誕生から7-8億年、水循環ができて38億年ですが、土壌と水との相互作用によりさまざまな地形が生み出されており、まさにその形成の途中を私たちは目にしています。山から水によって運ばれた土砂が三角州を形成し国土を広げ、人はそこに都市をつくりました。洪水という危険性をはらんでいるのはそのためです。土砂災害や液状化なども水がもたらす災害といえます。
■地震だけではなく風水害対策は必要
インフラなどの構造物は、世界レベルでみると、風水害被害が重点項目となっていますが、日本は地震が大変多いことから設計外力は地震力となっています。しかし、昨今の大雨を考えると風水害に備えることも重要となってきました。建設現場でも水をコントロールすることが不確実性の大きな要素といえます。
■一定のハード対策も
水循環はコンピューターの高度化、広域観測技術や情報技術の発達によって迅速かつ具体的、精緻に分かるようになってきました。24時間以内であれば大気現象と被害はかなりの精度で予測できるため、いわゆる「タイムライン」などに沿って災害対応がなされるようになりつつあります。昨年の鬼怒川の決壊・溢水もある程度想定されていたため、破堤の日の朝には周辺住民に避難勧告も出て、自治体や消防、自衛隊などでは待機や情報収集など必要な対策をとっていました。しかし、住民の中には堤防が決壊するまで家にとどまっていたため多くの人が家屋などに取り残され、大々的な救出作業が展開されました。死傷者も発生しました。こうした状況に鑑みると、ソフト対策だけではなく堤防の構築など一定のハード対策がやはり根本的に重要であると考えます。
■日本の国土に安全といえる場所はない
自然災害の観点から見ると、日本の国土に安全といえる場所はありません。しかし、場所ごとに「非常に危険」「危険」「ちょっと危険」といったランク分けはできるはずですから、次世代には非常に危険な土地からの撤退を考えることも必要になってくるでしょう。また、土地を選ぶ際には、地歴をみた上で、人命にかかわる災害が発生した場所には住むべきではありません。しかし、生きている間に発生するかどうか分からない災害に対して、備えをどこまでとるのかは個人の自由だという考え方もあり、危険地帯に住むのであれば近隣などに迷惑がかからない最低限の対策はとるべきだと思います。
よく「50年ここに住んでいるけれど初めての経験です」と被災者が話をしているのを耳にしますが、過去100年災害が起こっていないところでも、過去300年を振り返れば発生しているかもしれません。土砂災害に関連する水循環を含めて環境は時々刻々と変化しています。また、力学的にみても地形・地盤は安定を求めて絶えず動こうとしており、大雨や地震による外力が働くと大規模な変化が生じるのは当然です。がけ地や背後に傾斜地がある場合などリスクが考えられる場合には、早めの避難が必須です。
■里山・森林保全で対策も
里山・森林の保全も大切です。昔は薪炭利用などのため絶えず人が森林に手を入れていました。しかし、明治以降、化石燃料に依存するようになって、人が山に入らなくなりました。一見緑に覆われていますが、実際は枝葉が伸び地面に光が届かず、保水力がなくなり大雨が降ると土砂災害のリスクが非常に高くなっている森も多いのです。
水は土壌層でゆっくり水がしみ込み岩帯層に流れていき、山に水を保持する機能を有しています。その際に汚れた水が浄化され、きれいな水が数日から数万年の時を経て豊かな恵みを与えてくれます。しかし、たまに荒ぶるため人に被害をもたらします。そのため、水の流れを的確に予測し、災害に備える1つのツールとして組み入れ、いざという時のためにハード・ソフト両面での備えが必要でしょう。水が土地をつくり土地が水を作っているのです。本来の意味での総合的水資源管理、土地と水の一体的管理こそが有効な防災・減災につながるのではないでしょうか。
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