「これを機に伝統建築でもBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)活用が増えてくるだろう」。大成建設の松尾浩樹伝統建築設計室長は、九品仏浄真寺(東京都世田谷区)の閻魔(えんま)堂建て替えプロジェクトで活用する3次元プリントモデルを指差し、そう語る。現在は2017年5月の着工に向け、建築確認を申請中。これまで施主との打ち合わせに使ってきたプリントモデルは、施工時の納まり確認にも利用する計画だ。画像は閻魔堂のBIIMモデル
閻魔堂の建て替えを依頼されたのは3年ほど前。高さ216cmの閻魔大王像がまつられる御堂は高さ9m、延べ床面積は56㎡ほどだが、像をのせる須弥壇や天井装飾、垂木に至るまで、施主の意向を踏まえながらのきめ細かな設計が求められてきた。
3Dプリンターの効果を検証した五重塔 |
設計チームは従来のように2次元ベースで設計を進めてきたが、当時は同社がBIM活用に本腰を入れ始めた時期と重なった。高取昭浩BIMソリューション室長は「複雑な構造の伝統建築をどこまでBIMで表現できるか。その可能性を知る挑戦でもあった」と、導入のきっかけを振り返る。既に3Dプリンターも購入済みで、これからの伝統建築への活用を見越し、五重塔をモチーフにプリントモデルの作成を試していた。
伝統建築で実践する初のBIMとあって「最初からではなく、従来の2次元設計に並行して3次元設計を進めてきた」とは伝統建築設計室の針谷誠氏。目的の1つには、施主と打ち合わせがあった。設計プランの確認作業で、3次元モデルの可視化と3次元プリントモデルの具現化それぞれの効果を発揮できると考えたからだ。
高取氏は「現在であれば最初から3次元で取り組めるが、そもそもBIMの導入に踏み切る上で、仕事の流れ方をきっちり考えながら使っていく必要があった。CGだけの活用を重視すれば、モデルづくりだけに力を注ぎ、手間ばかりかかってしまう。複雑できめの細かな伝統建築はBIMにとってもハードルが高かっただけに、このプロジェクトが大きな一歩となった」と強調する。
プリントモデルで施主と打ち合わせ |
意匠と構造が一体的な美として表現される伝統建築では、屋根の反りや天井の在り方など内外装の微妙な納まりまで細かく要求される。通常はスケッチや模型を使って施主にプランを提示してきたが、このプロジェクトではCGとプリントモデルを使い、打ち合わせを進めてきた。
社内では、2次元の設計図面データをBIMソリューション室が3次元化し、設計チームに返す流れでBIM対応を推し進めた。「実際は施主に確認すべき必要のある部分に絞り、それぞれのプランの設計を行い、それをBIM化してきたため、われわれ設計チームの仕事の流れ方は従来とそれほど大きく変わることはなかった」(針谷氏)。
閻魔堂完成予想外観 |
BIMソリューション室では、3人体制の3Dプリンターチームを組織し、社内の要求に対応している。同社は20年をめどに設計業務の全てにBIMを導入する目標を立てており、既に基本設計業務の6割でBIM対応を進め、実施設計レベルでは3割まで拡大している。BIMの普及に呼応するように、プリントモデルの活用が進んできた。閻魔堂のプリントモデルは一晩で出力でき、これまでのように模型専門会社に外注した場合と比べてコストも時間も大幅に短縮できた。
松尾氏は「しかも模型ではこれだけ細い小屋組みは作れない。図面では説明しにくい部分が多く、どんなに複雑であっても再現できるプリントモデルは伝統建築との相性が非常に良い。これを施工段階でも活用し、職人との納まり確認に役立てたい」と次なる展開に期待をのぞかせる。
プリントモデルについては、高取氏が「建材そのものの作成も実験的に進めていきたい」と明かすように同社は、プリント材料の耐久性を考慮した使い方にも可能性を見いだそうとしている。プリントモデルがBIMの新たな可能性の扉を開こうとしている。
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