2016/09/11

【大成建設】伝統建築にBIM活用 3次元プリントモデルが開く新たな可能性


 「これを機に伝統建築でもBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)活用が増えてくるだろう」。大成建設の松尾浩樹伝統建築設計室長は、九品仏浄真寺(東京都世田谷区)の閻魔(えんま)堂建て替えプロジェクトで活用する3次元プリントモデルを指差し、そう語る。現在は2017年5月の着工に向け、建築確認を申請中。これまで施主との打ち合わせに使ってきたプリントモデルは、施工時の納まり確認にも利用する計画だ。画像は閻魔堂のBIIMモデル

 閻魔堂の建て替えを依頼されたのは3年ほど前。高さ216cmの閻魔大王像がまつられる御堂は高さ9m、延べ床面積は56㎡ほどだが、像をのせる須弥壇や天井装飾、垂木に至るまで、施主の意向を踏まえながらのきめ細かな設計が求められてきた。

3Dプリンターの効果を検証した五重塔

 設計チームは従来のように2次元ベースで設計を進めてきたが、当時は同社がBIM活用に本腰を入れ始めた時期と重なった。高取昭浩BIMソリューション室長は「複雑な構造の伝統建築をどこまでBIMで表現できるか。その可能性を知る挑戦でもあった」と、導入のきっかけを振り返る。既に3Dプリンターも購入済みで、これからの伝統建築への活用を見越し、五重塔をモチーフにプリントモデルの作成を試していた。
 伝統建築で実践する初のBIMとあって「最初からではなく、従来の2次元設計に並行して3次元設計を進めてきた」とは伝統建築設計室の針谷誠氏。目的の1つには、施主と打ち合わせがあった。設計プランの確認作業で、3次元モデルの可視化と3次元プリントモデルの具現化それぞれの効果を発揮できると考えたからだ。
 高取氏は「現在であれば最初から3次元で取り組めるが、そもそもBIMの導入に踏み切る上で、仕事の流れ方をきっちり考えながら使っていく必要があった。CGだけの活用を重視すれば、モデルづくりだけに力を注ぎ、手間ばかりかかってしまう。複雑できめの細かな伝統建築はBIMにとってもハードルが高かっただけに、このプロジェクトが大きな一歩となった」と強調する。

プリントモデルで施主と打ち合わせ

 意匠と構造が一体的な美として表現される伝統建築では、屋根の反りや天井の在り方など内外装の微妙な納まりまで細かく要求される。通常はスケッチや模型を使って施主にプランを提示してきたが、このプロジェクトではCGとプリントモデルを使い、打ち合わせを進めてきた。
 社内では、2次元の設計図面データをBIMソリューション室が3次元化し、設計チームに返す流れでBIM対応を推し進めた。「実際は施主に確認すべき必要のある部分に絞り、それぞれのプランの設計を行い、それをBIM化してきたため、われわれ設計チームの仕事の流れ方は従来とそれほど大きく変わることはなかった」(針谷氏)。

閻魔堂完成予想外観

 BIMソリューション室では、3人体制の3Dプリンターチームを組織し、社内の要求に対応している。同社は20年をめどに設計業務の全てにBIMを導入する目標を立てており、既に基本設計業務の6割でBIM対応を進め、実施設計レベルでは3割まで拡大している。BIMの普及に呼応するように、プリントモデルの活用が進んできた。閻魔堂のプリントモデルは一晩で出力でき、これまでのように模型専門会社に外注した場合と比べてコストも時間も大幅に短縮できた。
 松尾氏は「しかも模型ではこれだけ細い小屋組みは作れない。図面では説明しにくい部分が多く、どんなに複雑であっても再現できるプリントモデルは伝統建築との相性が非常に良い。これを施工段階でも活用し、職人との納まり確認に役立てたい」と次なる展開に期待をのぞかせる。
 プリントモデルについては、高取氏が「建材そのものの作成も実験的に進めていきたい」と明かすように同社は、プリント材料の耐久性を考慮した使い方にも可能性を見いだそうとしている。プリントモデルがBIMの新たな可能性の扉を開こうとしている。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【JFEシビル】BIM活用を本格化 単なるプレゼンツールから全面導入へ舵切り  「はじめの一歩を踏み出した」と、JFEシビルでBIM推進部長を兼務する建築事業部副事業部長の長田肇氏は、神奈川県藤沢市で施工中の学習塾・共同住宅プロジェクトを、そう表現する。同社にとってBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を導入した初の試み。このプロジェクトを足がかりに「導入数を着実に増やしていきたい」としっかりと先を見据えている。画像は初導入した学習塾・共同住宅プロジェクトのBIMモデル  同社がBIMを手掛けるきっ… Read More
  • 【BIM】仏のタブレット現場管理ソフト「FINALCAD」の代理店に シスプロ  BIMソフトの開発・販売を手掛けるシスプロ(東京都新宿区)は、世界30カ国で導入されるフランス発の現場管理ソフト「FINALCAD(ファイナルキャド)」の正規代理店として販売・導入支援を開始した。iPad(アイパッド)などのタブレットに現場図面を登録し、その上に品質や安全管理、躯体、設備、内装などの作業進捗や問題情報などを入力する。元請けと協力会社が共通プラットフォームで情報共有し、現場管理に役立てる。  アプリをApp Store、… Read More
  • 【CCA】「建設IoTワーキング・グループ」発足! 真の生産性向上目指しICT技術を取り入れ  全国の地域建設業の若手経営者らで組織する地域建設業新未来研究会(CCA)の「建設IoT(モノのインターネット)ワーキング・グループ(WG)」が発足した。ICT(情報通信技術)の検討事項をまとめるWGで、第1回会議が25日にCCA会員の中村建設(奈良市)で開かれた=写真。  CCAは、さまざまな目的を実現するための検討事項を重複させず、迅速に進めるため、下部組織としてWGを設置した。WGでは、継続的な利益の確保、地域雇用の安定的な保持とい… Read More
  • 【技術裏表】解体現場環境をリアルに再現 シーワークスの「解体業パッケージ」 建物の新築や改修工事だけでなく、解体工事にも3次元モデルが活用され始めた。シーワークス(東京都多摩市、藤田一世社長)が開発した解体工事専用3次元CAD「解体業パッケージ」は解体現場の3次元モデルを構築し、足場など仮設の設置や構造物の解体手順などを事前にシミュレーションして施工計画の検討に役立てる。藤田社長は「工事の生産性を高めるとともに、ビジュアル化や数量集計機能で営業力の向上にも効果を発揮する」と強調する。建設ITの導入が解体工事に大きな… Read More
  • 【BIM】常識疑う「NBF大崎ビル」 日建設計の山梨氏に聞く 北東側に設けられた簾のようなルーバーは雨水を利用してヒートアイランド現象を抑制する「バイオスキン」の技術を使用。周辺環境への配慮も含めた高い環境性能を確保したことに審査員も賞賛 1949年の設置以来、時代を画した数多くの優れた建築を表彰してきた日本建築学会賞作品部門。今回は日建設計の革新的なオフィスビル『NBF大崎ビル(旧ソニーシティ大崎)』、ゼネコン単独の設計としては約50年ぶりとなる竹中工務店の『明治安田生命新東陽町ビル』、篠原聡子氏… Read More

0 コメント :

コメントを投稿