九州に支店を置く組織設計事務所が一堂に会した、日刊建設通信新聞社九州支社主催の座談会が8月31日、福岡市内で初めて開かれた。梓設計の前田隆、アール・アイ・エーの早田満、石本建築事務所の川口圭太、久米設計の中本俊也、佐藤総合計画の嶋田秀雄、大建設計の木幡悟、日本設計の森浩の7氏が参加し、竹下輝和九大名誉教授がコーディネーターを務めた。
竹下名誉教授は「いろいろなデータを調べると東京より地方の方が優位になっている。東京を向くのではなく、地域を横に結ぶ支店のつながりに新しいスタイルの可能性を感じる」とあいさつした。続いて嶋田氏が「この集まりは熊本地震で多くの建物が被災した中、公共施設を数多く手掛ける組織事務所として社会に貢献できないかという思いから自主的に集まった。利害の異なる組織事務所が九州だからこそできる、建築を通しての地域貢献の実践に向けたスタートになる」と説明し討論に入った。
--熊本地震を受けて建築の設計者として考えること
森氏は「小中学校と比較して庁舎建築の耐震化率の低さ」を指摘した上で、「地震後などの有事の際の拠点となるべき庁舎の機能維持だけではなく、都市機能を寸断されないようにする」ため、都市を構成する建築やインフラの社会的重要性に応じた耐震性能の確保に取り組む必要性を挙げた。
◆場所性に根ざす復興
中本氏は「継続性がある組織設計事務所として、先輩たちが設計した建物のケアに震災後はすぐに動いた。今後は災害に強く生活が継続できる建築を社会に訴えていく」ことを強調した。嶋田氏は「熊本の被災者には、東北のように移転による新生活ではなく、通勤・通学ができ、近所づきあいが続く地域の中で、新しい生活を行うにあたり、地域固有の場所性に根ざした復興計画、地勢的特徴やコミュニティーを継承する街の再生が重要」と述べた。
前田氏も「過去を踏まえ現在を踏襲しつつ、制約のない未来には安全性を阻害しない建物を提案しなければならない」と応えた。ただ、経済性を考慮する必要があり、川口氏は「顧客と接する中で予算と安全性を説明したい」と話した。
◆地域係数概念を再考
早田氏は「熊本地震によって建築基準法施行令が定める地域係数の概念は再考せざるを得ない。今後建物の耐震性に関して、いかに丁寧に顧客に対して説明し、理解を得ていくか」と問題提起した。木幡氏は、構造上は安全でも内装が壊れると危険な建物と判断され、被災者が車中泊するケースが目立ったことに、「内装材のガイドラインが提案されたことがある。過去の教訓を紐解いて安心・安全な建物を設計しないといけない」と指摘した。
これらを受け、竹下名誉教授は、「設計者には安全性を説明する責任がある。そのための材料を持っていないといけない。設計事務所の横のつながり、共同作業を通じて地域の条件に合わせた安全性のガイドラインを作成しないといけない」と示唆した。
--建築の設計に加え、これからのまちづくりも含めて考えること
森氏は「千年に一度の災害に1つのハードで対応するのは非現実的。ソフトとハードをミックスした対応が必要。ソフト面では、自助・共助の重要性を感じた」と話し、災害発生を想定した事前復興という考え方を取り入れたまちづくりも重要とした。中本氏は「建築に関心を持ち理解し愛着を持ってもらう。そういう設計プロセスを踏まないと自助・共助の精神は生まれてこない」と指摘した。
◆建築単体に防災視点
前田氏は、地域の特性を踏まえたコミュニティーの必要性とともに、熊本地震の電気、ガス、道路の復旧を例に、公助が受けられる備えの重要性を説いた。木幡氏は、建築単体としても「これまでの周辺環境、気候・風土に加え防災の視点から考えることが重要になってくる」と話した。
川口氏は、過疎化する団地や小中学校の統廃合を取り上げ、「コミュニティーを守れるよう街の未来を提案していかないといけない」と話した。嶋田氏は、「地域は人口減少が進行し大学の存続も容易ではないが、地域の住民、行政といっしょに大学がまちづくりを進める」ことも重要とし、「街が大学を支え、大学が街を活性化させる」考え方を提案した。一方、早田氏は土木系が先行する復興計画に対し、「避難生活が長引くとコミュニティーが崩壊する。避難・復旧・復興、各段階ごとにどうコミュニティーを維持していくか。われわれのかかわり方について時系列的な整理が必要」と指摘した。
竹下名誉教授は、コミュニティーを社会と定義づけ、「近代社会のコミュニティーは大きすぎる。小学校区くらいの規模の社会に再編し、防災を含めた仕組みまでデザインする」との考えを示した。
--今後の活動の展望
現在も余震が続く中、震災直後から活動している建築関連団体に敬意を表し、その活動や将来の復興、まちづくりに対して九州で活動する組織設計事務所が建築を通して地域に発信することで社会に貢献し、これからの九州のまちづくりに少しでも寄与する意見で一致した。
最後に竹下名誉教授は、「近代社会形成において建築の専門家をどのように組織化して地域のニーズに対応してきたか。組織事務所が地域でさらに横に連携し、新しい防災やコミュニティーのあり方を提案できるのではないか」と総括し、「今後の行動を注視したい」と期待を込めた。
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