『空中外壁工事部隊』をキャッチコピーに掲げ、ビルやマンションの外壁修繕市場にロープ作業で挑戦している会社がある。東京都世田谷区に本社を置く「フリーウォール」だ。安全には細心の注意を払いつつ、足場を設置しないというコスト面だけでなく、顧客のニーズに応じて柔軟な施工計画が立てられることを“売り”としている。濱田裕亮社長は「今後は、支店を拡大し、大規模工事や公共工事などにも参加できるようになりたい」と意欲を示す。
ロープ作業は、足場のない高所作業のため、“危険”というイメージがつきまとう。このため、専用の架設と3点支持、サブロープの使用を徹底するだけでなく、産業用のセミスタティックロープを使用し、フルハーネスとクライミング用カラビナという「レスキュー隊や自衛隊が使うハイレベルの装備」(濱田社長)で、落下事故には細心の注意を払い、高い安全性を確保している。現場には「朝顔」も設置して落下物への配慮も忘れない。
2016年1月1日には、「ロープ高所作業」の危険防止のため、労働安全衛生規則が改正され、ライフラインの設置や作業計画の策定、特別教育の実施が義務付けられた。既に特別教育は実地・学科ともに実施済み。改正内容は「すごく当たり前のこと」と、対応には困らなかった。
濱田裕亮社長 |
最大の“売り”は、「足場の費用がかからない」ことだ。足場を設置した作業に比べ、最大で1日当たり100万円程度の価格差が出たこともあるという。
ただ、決して価格だけが業者選定の決め手になるわけではない。「一度に足場を設置する必要がないため、まずは緊急性の高い部分だけ補修して、全体はその後ということも可能。会社の会議時間を避けたり、洗濯物を干す住戸部分の作業を避けるなど、住民の希望に応じて施工場所・時間帯を変えることもできる」というしなやかさも顧客に受け入れられやすい特徴だ。特殊な装備を使っているため、下降だけでなく上昇や横移動も可能なことが、柔軟な作業工程に役立っている。
マンション・ビルの管理組合や管理会社から直接受注による「完全自社施工」にもこだわりを持つ。ロープ作業を基本として、シーリングや爆裂欠損、クラック、モルタル浮き、塗膜はく離などの各種補修や、防水工事、塗装、タイル工事などすべての作業を約20人の技能者が身に着け、専門工事業者に依頼する作業はほとんどない。調査報告書などの事務作業も技能者がこなす。「現場に入る作業員が少人数で固定され、マンションの住民も顔を覚えられる」ため住民の安心につながり、技能者も住民への応対に配慮するようになる。現場内での会社間の調整がないため、トラブルも起きにくい。完全自社施工は、技能者のモチベーション向上にもつながる。入社すると、まずロープ作業の基本を教育し、社内の研修設備を使いながら、簡単な作業から順番に教えていく。「1つ極めても次に覚えることがあって(技能者が)飽きない」ほか、何よりも「1棟をすべて自分が補修したと言えるので、仕事に誇りを持ちやすい」という。
本社執務室。技能者が自ら書類づくりなども行う |
社内の雰囲気作りも独特だ。濱田社長は、バンドマンを目指して上京し、収入のために働いていた建設現場でロープ作業にほれ込んだ。このため、本社のフロアにはドラムセットが鎮座しており、懇親会の際などに活躍する。作業着もベスト、ポロシャツ、ズボンの色を統一、移動用の車には『空中外壁工事部隊』の文字とマークのステッカーを貼り、チームとしての雰囲気を醸成している。社員とのコミュニケーションを大切にし、半年に一度、通信簿を作成して「足りない部分やもっとできる点を社員が集まって話し合う」という。それでも不満や意見が出るため、個人面談とアンケートでフォローする。社員は、もちろん社会保険完備だ。
現在は、月約30件前後の工事を手掛けており、リピーターやホームページからの依頼など受注も安定している。若さあふれる雰囲気と特殊技能で拡大する市場に打って出る。
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