2016/10/21

【本】建築空間に調和する「いす」の存在感 コトブキシーティングが100周年で『学校建築とイス』刊行


 東京大学の安田講堂には、1136脚のいすが据え付けられている。列端の座席の肘掛けには東大の校章が鋳造されており、創建当時のイメージを保っている。重厚な歴史を感じさせる写真から本書は始まる。

 教育施設や劇場・ホールなどのいすを数多く手掛けてきたコトブキシーティングは、100周年記念事業の一環として記録写真のアーカイブを進めていたが、その作業の過程で生まれたのが本書だ。
 建築物の竣工写真は、世に数多く存在するが、その施設に設置されたいすに焦点を当てた写真はめずらしい。同社だからこそ撮影していたいすの写真は、建築空間と見事に調和し、改めて存在感を示す。本書には66の学校に収められたいすが登場するが、それぞれのいすに学校が考えた空間デザインの機微が読み取れる。それは形であったり、張地の織り方や色にも反映されている。
 同社が初めて納めたいすは、1923年、フランク・ロイド・ライトが設計した帝国ホテル演芸場の客席だったという。その後、東京帝国大学の安田講堂を経て、100年にわたり学校建築の現場にかかわってきた。本書は、最近10年間に竣工・改築された案件の記録として編纂された。「いす」の存在感を存分に味わえる1冊だ。 (ブックエンド、3000円+税)
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