国土交通省の作文コンクール、高校生を対象にした『「建設業の未来」を担う高校生の君たちへ』の大臣賞を受賞した齋藤萌さん(福島県立喜多方桐桜高校3年)の作文です。
「技術者としての覚悟」
父が頭にタオルを巻き、耳に鉛筆を挟んでいる姿を、幼い頃の私はよく真似していた。また、父が仕事をしている隣では、廃材に釘を打ちながら遊んでいた記憶が鮮明に残っている。
小学校4年生のある日、学校から帰ってきた私は、父の仕事机にある一枚の図面が目に入った。初めは、何が描いてあるかわからず、気に留めていなかった。しかし、図名には「新築工事」と書いてあり、家の図面だということがわかった。家の図面はどうなっているのか気になり改めて見てみると、部屋の位置や大きさなどの構成を漠然と読み取ることができた。そして、この一つの図面を基に、家が出来上がっていくことにとても興味を持った。
あれから8年。父は変わらず6時半にタオルはちまき姿で仕事場へ行き、6時40分には仕事場の掃き掃除をしている。そして、8時になると職人さんと朝茶を飲み、たわいない世間話やその日に行う仕事の話をしている。昼食は早めに摂り、12時半には昼寝をする。しかし、昼寝の時も常に仕事の電話は鳴り止まず、耳に挟んである鉛筆を取り出し、午後の仕事が始まっていく。
これが、8年間続いている父のルーティンである。なぜ、この地味で小汚い姿や一連の行動をするのか、父に尋ねても明確な答えは返ってこないだろう。なぜなら、職人の父にとっては、呼吸をするかのように当たり前の動作だからだ。しかし私は、これらの一連の行動が父の職人としてのスイッチをオンにさせているに違いないと思う。これらを行うことで、職人としての技術や技能を存分に発揮することができ、こだわりのある家づくりが、お客様に満足を与え信頼関係を築いているのだと感じた。
高校3年生のいま、8年間の思いが建設系専門学校へ進学することを決めさせた。この先、一人前の技術者になるためには、内容の濃いものを短時間で習得することも大事なのだが、一見、意味のないような単純で簡単なことを長くながく続けていくことの方が大切だと感じるようになった。
いつか、父の隣で仕事をしながら、「親父と変わらねーな。」と周囲の職人さんから言われた時が、一人前の技術者として認められたことになるのだと思う。これから先、長年続いた家業を継ぐ跡取り娘として、新しい知識や技術を吸収し、父とともに単純で簡単な繰り返しを確実に長く続けていくことが大切である。それが、一人前の技術者になるための私の覚悟である。
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