30年前に生まれた建築関係者が30年後の都市と建築を議論し、これを実現していくための協働のあり方などを提起しようという「パラレル・プロジェクションズ」が1日から10日にかけて、東京都港区の建築会館ホールで開かれた。1980年代生まれの建築関係者約140人が集い、13チームに分かれて総計100時間にも及ぶセッションでは、参加者それぞれの実践に基づく展示とディスカッションが並行し交錯する、従来にないかたちでのまさにパラレルでフラットな議論の場を醸成。この中で浮き彫りとなったのは時代の変容に即した建築家職能のあり方を模索し、社会や地域のニーズにひたむきに向き合いながら実験と実践を積み重ねている若い世代の姿だ。写真は真剣な議論が繰り広げられたセッションの様子
デザイン、エンジニアリング、まちづくり、不動産、歴史、メディアなどの領域がシームレスにつながりつつある中で、これまでにない建築とのかかわり方、協働のかたちを考えることから未来に向けた建築の可能性を描き出そうと、日本建築学会が創立130周年記念事業として、さまざまな専門分野と職能を横断する80年代生まれの建築関係者を公募、建築文化週間にあわせて実施した。
◆同世代が共通認識
事前に特設ウェブサイトで関心の高い13のトピックに沿ってチームを編成。1日には約140人の参加者が一堂に会し「パラレルセッションズ00」を開き、各チームとも熱のこもった討議を展開した。同じ世代としての共通認識や価値観、問題意識を整理しながら30年後の建築の姿と、それを実現するための社会像を提示した。
「透明な開発」「社会福祉を担う地域空間とは」「Googleがとりこぼした世界へ」「組織を前提とせず職能を併走させる社会は可能か」「未来の建築学校」「危機の顕在化」--。提示された13のプロジェクションは、8日から10日までの3日間に各チームが再度結集し、初日は山梨知彦氏(日建設計)と饗庭伸氏(首都大学東京)、2日目は西田司氏(オンデザインパートナーズ)と馬場正尊氏(OpenA)、最終日は青木淳氏(青木淳建築計画事務所)をゲストコメンテーターに迎えて、さらに議論を深化させた。
ゲストコメンテーターからは時に厳しい指摘や疑問が提示され、また意表を突く質問も飛び出し、これに参加者は真摯(しんし)に答え、逆襲するシーンも見られるなど、スリリングとさえ言えるディスカッションが繰り広げられた。
それぞれの実践事例も展示し、紹介した |
◆定義揺らぐ切実感
こうした取り組みに対し、山梨氏は「建築家の職能や役割について前向きに悩み、熱い議論を交わしていた。どこまでやるべきか、限定するのか、あるいはチームワークでやるのか。それは建築家という職業が生きているということ。社会も激しく変わって、わたしたちの感性が拡張している中で建築家の職能も変わらないわけがない」とし、青木氏も「画期的な試みだった。いま設計とは何か、建築家とは何かと定義できずに揺らいでいる。その切実感が出ていた」と評価する。
同学会建築文化事業委員長の関野宏行氏(佐藤総合計画)は「いま社会の閉塞感、息苦しさが建築の世界にも漂っている。今回、同世代の140人が集まって議論した多様性の中から少しずつ新しい時代が見えてくることを期待している。横のつながりを深めながら、それぞれの取り組みをさらに深掘りして建築活動を進めてほしい」と期待を込める。
◆前向きな議論評価
同委員会の担当委員として今回の企画運営に携わった、参加者と同世代の辻琢磨氏(403architecture〔dajiba〕)は「人口も減る、仕事もない、抑圧されている共通状況下にあって、展示台の使い方も含め参加者の主体性、前向きな議論に勇気づけられた。こういうふわふわとしたネットワークを学会のプラットフォームを使ってできたことの意味は大きい」とその意義を強調。川勝真一氏(RAD)も「このネットワークはさらに広がる。ともにこの空間にいたことを大事にして進んでいきたい」と語る。
クロージングトークで感想を話す(右から)青木淳氏、川勝真一氏、辻琢磨氏、関野宏行氏 |
パラレル・プロジェクションズは、今回の議論や展示などの内容をアーカイブとしてウェブサイト上だけでなく紙媒体も作成。一過性のイベントに終わらせることなく、建築プラットフォームとしてのあり方も引き続き探っていく。
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