地球温暖化対策や持続可能な低炭素社会の実現に向けて、都市・建築分野での木材利用の促進に期待と関心が高まる中、「木質化をめぐる日仏建築家ラウンドテーブル」と銘打った会合が7日、東京都品川区の建築倉庫ミュージアムで開かれた。木造・木質建築に積極的に取り組む日仏の建築家が集い、木質化の可能性を広げるプレゼンテーションを繰り広げた。写真は10人の若手建築家を交えたフリーアクセスセッション
フランス側の話題提供者・楠寛子氏 |
仏側の話題提供者の一人として登壇したのが、楠寛子氏(モロー・クスノキ・アーキテクツ)。2011年にパートナーであるニコラ・モロー氏とパリに事務所を立ち上げて5年。この間、『ボーヴェ新劇場』『パリ高等裁判所広場』『ギアナ文化複合施設』などのプロジェクトを次々とコンペで射止め、15年6月には77カ国から1715件もの応募があった『グッゲンハイム・ヘルシンキ・デザイン・コンペティション』でグランプリに輝き、その名を世界にとどろかせた。
そのヘルシンキにおけるグッゲンハイムの新美術館では、9棟の低層パビリオンと1棟のタワーという10棟の分節した施設群を提案。各棟は屋根の架かった室内スペースでつなぐ。「パビリオンは木造で柱・梁も基本的にLVL(単板積層材)を使う。V字型のビームを使ってギャラリースペースにも自然光を入れる工夫もしている」という。
◆親しみある“焼杉”産業化への契機に
ファサードには「フィンランド北部の人々が昔から使っていた技術で、日本にも存在するテクノロジー」である“焼杉”を使う。「フィンランドでは週末用コテージによく使われていて国民にとても親しまれている材料」となっている一方で「産業的なレベルにまではなっていない」
このため、「このグッゲンハイムを1つのきっかけとしてスケールアップしていく、フィンランドでも小規模なものから産業的に一般に広げていけるリーディングプロジェクトになればいいなと思っている」と意気込む。
◆意匠にLVLの積層、現代だからこその表現
山代悟氏 |
このうち山代氏は、LVLを構造体パネルに使うとともに、内外装の仕上げとし「積層の断面を意匠としても使うことで現代だからできる木の表現」を試みた『みやむら動物病院』(東京都江戸川区)や、両側のコアをCLT(直交集成材)でつくり、中央部は軸材で軽やかな空間とする、現在実施設計中の『大分県木材会館』を紹介。
安原幹氏 |
「木造建築では技術的なチャレンジをしたい」と語る安原氏は、カテナリー曲線を描く屋根を架けた『群馬県農業技術センター』や『陸前高田市立高田東中学校』、さらに「伝統技術を使いながら現代の木造建築をいかに造るか」という観点から、貫式ラーメン構造を採用して現在設計を進めている『大船渡消防署住田分署』を説明した。
内海彩氏 |
内海氏は、北海道内で最大蓄積量を誇りながら、乾燥技術が確立していないため製材利用が進んでいないトドマツ材の活用に挑み、約8m四方の小学校の教室程度の空間が3つ並ぶ平面に住宅用流通サイズの製材で組み立てるトラス・ラティス梁を架け渡すなど、すべての構造材をトドマツとした『下川町のトドマツオフィス』の事例などを通じて、木の新たな可能性を広げる取り組みを語った。
◆CLTがエネ消費抑制、合理的に大空間を架構
小見山陽介氏 |
小見山氏は、英国の設計事務所勤務時の経験をもとに、CLTにはエネルギー消費量を抑えるなど「複合的な機能を果たす可能性がある」と指摘。その上で国土交通省の16年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)にも採択された『松尾建設新社屋建設計画』(佐賀市)ではS造の柱・梁とCLT床のハイブリッド構造に取り組んでいるなどとした。
原田麻魚氏 |
原田氏は、「益子の低いなだらかな山並みにそのまま寄り添うような形が益子の木でできた」という『道の駅ましこ』(栃木県益子町)や、「木は圧縮より引っ張りで使った方が3倍強い力を発揮できる。合理的に材料を少なく住宅用の小さな材料で大きな空間が造れる」として、住宅用サイズのベイマツを編み込んでカテナリー屋根を架けた『知立の寺子屋』(愛知県知立市)などを紹介した。
今回のラウンドテーブルは、日本建築文化保存協会が主催、日仏工業技術会と日本建築家協会が共催した。4つのセッションに分け、ニコラ・ジゼル、クリストフ・オハヨン両氏(ともにコーズ・アーキテクチュア)、ディミトリ・ルセル氏(レネ・ルセル)、それに楠氏が「フランスにおける木質化の新たな動向」、山代氏ら5人は「日本における木質化の新地平」と題してレクチャーしたほか、仏REI社の創設者であるポール・ジャルカン氏とナイスの平田潤一郎専務が「木質化のビジネスモデル」としてそれぞれ事業概要などを説明。さらに10人の若手建築家を交えたフリーアクセスセッションを展開した。
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