2016/12/27

【記者座談会】回復基調が鮮明になった2016年を総括 各分野ごとに振り返る


 建設産業界にとって2016年は、公共・民間工事とも堅調な受注環境のなか、企業経営の先行きを示す手持ち工事高も順調に積み増したほか、足元の収益についても大手・準大手を中心に回復基調が鮮明になった年だった。さらに地方の公共事業量についても、昨年来から問題となっていた地域間格差是正へ、16年度第2次補正予算が配分されるなど、地方再生への政策的配慮が届いた。一方、品質問題と重大事故発生によって、「品質」「安全」が、ものづくりの原点であることを業界全体が再確認した1年でもあった。各分野ごとに担当記者による座談会で、この1年を振り返る。写真は日建連が開いた「けんせつ小町活躍現場見学会」。未来の小町が大勢参加した


■行政・業界団体 担い手育成、生産性向上加速
A 国土交通省は2016年度を「生産性革命元年」と位置付けて、建設現場の生産性の向上に取り組んできた。象徴的だったのがICT(情報通信技術)土工の加速度的な普及だ。地方自治体への浸透が実現すれば、i―Construction(アイ・コンストラクション)が建設現場のスタンダードになる日も近い。
B 産業政策という面でも将来へのステップを踏んだ年と言える。注目は紆余曲折を経ながら、本体システムの開発段階へと入ってきた建設キャリアアップシステムだろう。担い手の確保や技能者の処遇改善へ、建設産業界全体としてこのシステムの存在価値やメリットをいかに高めていけるか。業界一丸となった取り組みが求められる。
C 10月にスタートした建設産業政策会議も大きな関心を呼んでいる。制定から70年が経つ建設業法の改正など大胆な政策提言へ、今後の議論動向に注目が集まる。
A 少子・高齢化社会の到来に伴う労働人口の減少が見込まれる中、建設業にとって生産性の向上は喫緊の課題だ。日本建設業連合会は1月に生産性向上推進本部の初会合を開き、4月に「生産性向上推進要綱」をまとめるなど、生産性革命元年にいち早く対応した。
D 各団体では、社会保険未加入対策や建設キャリアアップシステムなど、担い手の確保・育成と生産性の向上を車の両輪として推進する動きが目立った。業界団体にとっては慌ただしい1年だったという印象がある。
E 特に女性活躍の推進については、日建連が前年に続いて実施した現場見学会を始め、各団体もゼネコンと連携した取り組みに力を入れていたね。取り組みを一過性に終わらせないという業界全体の固い決意は、取材本数の増加にも表れている。
B 15年度の改正品確法運用元年に続く、生産性革命元年と、建設業界全体の転換期に各団体も急ぎ足で対応している。
A 「元年」続きで、次々と打ち出される施策に追い付ききれない地方建設業界も多い。事業量の地域間格差がより鮮明になる中、新たな施策に対応するための支援を求める意見が全国から上がっている。
C 地域建設業の安定的な経営に向け、全国建設業協会が「全建としての必要な事業量の確保」の検討に着手することを表明したことも印象に残る。ただ、大都市圏と地方部では認識の差がある。全国共通の「落としどころ」をどうまとめるか、検討結果に注目したい。

■ゼネコン 好調続き活発な攻めの投資
A
 ことしは2016年3月期決算で、過去最高収益を上げるゼネコンが相次いだ。
B 昨年のいまごろは、「16年から需要が徐々に増加して労務費や資機材価格が上昇する」と予想されていたため、17年3月期の業績予想を保守的に設定する企業が多かった。ところが、開けてみれば結局、17年第2四半期決算でも好業績が続き、大手・準大手25社中17社の完成工事総利益(工事粗利)率が10%を超えた。
C 首都圏の超大型建築案件が予想より進捗せず、その結果、売上高は減収か横ばいが多かった。予想より工事が進捗しなかったことと主要職種を必要としない構造への変更などもあり、専門工事業者の稼働率が上がらず、労務費や資機材価格が予想よりも上がらなかった。この結果、高い粗利が確保できた。
B 粗利が高いといってもまだ10%そこそこ。「ようやく他産業に肩を並べられるようになった」という水準だろう。ただ、利益の改善によって、各社とも技術研究所の新設・拡充、リニューアルや技術開発費の増加、新領域事業への積極投資など20年東京五輪後を見据えた体制づくりに動き出した。
A 来年は、大手・準大手とも先を見据えた投資など攻めに転じる動きがさらに広がりそうだ。
D 一方で地方建設業界は、公共工事受注額が前年度比増とはなったものの、思ったほど伸びず、補正予算の効果発現はまだまだこれからという状態で、苦戦した。公共工事予算は横ばいだが、1件ごとの大型化が進み、地場ゼネコンの出番が減っているのは間違いない。大手・準大手ゼネコンと地域建設業の格差は広がるばかり。市場を求めて首都圏に積極参入する地場大手ゼネコンも出ている。
A 17年度当初予算の公共事業関係費も横ばいなので、大手・準大手の好調と地域建設業の苦境という構図は、しばらく続きそうだね。

■設計・コンサル 建築6団体が共同提言

建築6団体は非構造部材の安全確保に向け、共同提言を発表した。
設計と施工の垣根を越えた協調がこれからの課題となる
A 建築設計界ではあまりいい話題がなかった。コストやリスクにばかり世論の関心が向かい、本質的な議論が深まらない。そんなもどかしさを感じさせた1年だった。豊洲市場や五輪競技会場見直しをめぐる問題でも建築設計界の存在感は希薄だった。
B 明るい話題では世界屈指のサッカークラブ、FCバルセロナの本拠地「カンプ・ノウ」改修計画の国際コンペで日建設計が選ばれた。地球上で最も人気のあるスポーツだけに、このニュースは日本の設計事務所の知名度と実力を世界に示したのではないかな。
C 4月の熊本地震は日本が地震大国だと改めて思い知らされた。単純には言えないけど、被害状況から見て耐震補強を徹底していれば防げたケースも多かったのではないかな。
A その点では建築6団体が非構造部材の安全確保に向け共同提言を発表した意義は大きい。設計者だけでなく施工者や工事監理者、専門工事業者、メーカーの役割を明確化したのが大きな特徴だ。
C 今回の提言はあくまで設計者が中心だ。垣根を越えて、どう理解を得るかがこれからの課題になる。
D 建設コンサルタント業界は公共事業費が安定的に推移したことから、受注環境はおおむね好調だった。
E 海外展開の動きも目立った。日本工営は4月、英国の建築設計事務所であるBDP社を買収した。パシフィックコンサルタンツグループは9月、2年後をめどに国際事業を統括する100%子会社を設立し、国際展開を加速させる方針を打ち出した。
D ことし後半に入ってからは、空間情報技術をベースとする国際航業とアジア航測が、それぞれ他の建設コンサルタントと提携・協業する動きに出た。
E いずれも精緻な地理空間情報といった得意分野を生かしながら、互いの技術力を提供することによって、相乗効果と事業体制の一層の強化が実現できると判断したようだ。

■設備 首都圏中心に需要積み増し
A 設備工事業界もゼネコン同様、業績面は好調だ。やはり全体のけん引役は、首都圏を中心とする旺盛な建築需要で、各社とも受注を積み増している。
B 設備の老朽化などに伴うリニューアル案件の増加は全国的な傾向で、単に東京に人を集めればいいというわけでもない。いくら東京に大型案件があるからといって、以前に施工を担当した物件の施主をおろそかにはできないからね。各社とも技術者の配置には頭を悩ましている。
C 設備も過去最高の手持ち工事量を抱える企業が少なくない。手持ちの多さは悪いことではないが、設備の場合は後工程に当たるため、建築以上に工事進捗の遅れは怖い。工期に余裕のあるものが延長されればいいが、民間案件ではなかなかそうはいかない。後工程になればなるほど、突貫工事への対応で費用が掛かり、企業収益に跳ね返ってくる恐れがある。
A 設備工事は17-19年にかけて、どんどん工事量が増大してくるとみられている。現時点では、施工体制に若干の余力があるものの、既に依頼を断らざるを得ない状況が出てきているところもある。

■メーカー 本格的な需要増加に期待


内田洋行が提案する地域産材を活用した木質空間「ウッドインフィル」
A 東京五輪に関連する需要から、回復が期待されていたセメントの国内販売は、足踏み状態が続いた。当初は夏をめどに需要が出てくるとの期待があり、年4300万tを見込んでいたものの、当初の見立てとは違い、開催まで4年を切ってもなかなか需要は出てこなかった。
B 上期(4-9月)決算がまとまった段階で、セメント各社はそろって自社の見込みを下方修正せざるを得なくなり、大半が100万t減の見通しを発表した。結局、直近の11月まで16カ月連続で前年同月比マイナスが続いた。
C 11月にはようやく5.1のプラスとなった。2015年に比べて出荷日が1日多かったことを勘案しても、0.5%と17カ月ぶりにプラスに転じた格好だ。「待ちに待った」「潮目が変わった」などと年明けからの本格的な増加を期待する声が聞こえてくる一方で、「五輪需要は17年度以降まで出ないのではないか」との慎重な見方もある。
D 建材・住宅設備メーカーはいずれも業績は好調だった。2月のマイナス金利の影響で住宅着工戸数が増え、需要が戻った。消費増税が19年10月にずれ込んだことで、駆け込み需要の山谷が平準化したと明るく捉える向きもある。ただ、非住宅はおおむね着工遅れのため、関連メーカーは17年下期から需要が回復すると見ている。
E 災害対策にも注目が集まった。ゲリラ豪雨が日常化する中で、荒川がはんらんすれば東京都内に甚大な被害が出る。侵水に対する危機感が強まり、メーカー側も止水板や防水シャッターを取りそろえた。耐震補強工法など、より高性能な建材を提案する動きがある。

■プロジェクト 都心で大型事業相次ぐ

10月に着工した森トラストの東京ワールドゲート
A まずは、ことし1年のプロジェクト動向から。
B 大規模プロジェクトがめじろ押しで、何から挙げていいか迷うが、特筆すべきは新国立競技場などの五輪施設、リニア中央新幹線の難工事工区の着工だろう。どちらも歴史に残る国家的プロジェクトだ。
C 東京都心は、昨年に引き続き民間の大型工事が相次いで動き出している。ことし完成を迎えたプロジェクトでは、通称“赤プリ”の跡地を複合開発した「東京ガーデンテラス紀尾井町」(千代田区)が7月にオープンした。五輪開催にあわせて、ホテル開発が加速している。三井物産と三井不動産による「(仮称)OH-1計画」(千代田区)は6月に着工して、高級ホテルの「フォーシーズンズ」が入る。一方、東京・虎ノ門のホテルオークラ(港区)の本館建替工事も同じく6月に着工した。
D 虎ノ門といえば、大型開発が集中しているエリアの1つ。10月には、森トラストによる「東京ワールドゲート」が着工した。森ビルも、虎ノ門ヒルズの南北で事務所棟と住宅棟の建設を計画中で、来年1月に着工する予定だ。東京メトロ日比谷線の新駅が設置され、選手村とスタジアムを結ぶオリンピックロードとなる「新虎通り」の沿道開発も進んでいる。
C 新駅ではこのほか、東日本旅客鉄道(JR東日本)の「品川新駅(仮称)」の概要も明らかになった。品川周辺も虎ノ門と同様、新駅周辺に大規模開発が集中するエリアの1つとなる。
B 浜松町や芝浦、豊洲、有明などで大型事業の計画が複数ある。羽田空港跡地でも大規模な面的開発が計画中。17年度以降、施工者にとっては労務調整などいわゆる“山崩し”の重要性がさらに高まりそうだ。
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