清水建設が国際支店を置くシンガポールで、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の現場展開が急速に進んでいる。3次元のモデルを発注者との合意形成や干渉確認だけでなく、設計から施工、フロアごとのテナント間仕切りの設置など現場作業にも活用し、生産性の向上につなげている。シンガポール建築開発庁(BCA)のBIMアワードの最優秀賞『プラチナ賞』を受賞した「チャンギ総合病院メディカルセンター」と「メープル・ツリー・ビジネス・シティII」=画像=のプロジェクトを追った。
シンガポールでは、政府の施策として、ほぼすべての建築確認申請にBIMモデルの提出を義務付けている。メープル・ツリー・ビジネス・シティIIでBIMをフル活用した石橋章夫所長は「強制力があったから使わざるを得なかったが、使ってみたら非常に良かった」と手応えを口にする。
工事規模は総延べ24万5000㎡に達し、しかも5階、6階、9階、30階の階段状の複合施設となる。同社はこれを26カ月で完成させた。計画段階では「バーチャルの建物が存在しており、納まりが視覚化され、手待ち、手戻りを減らせた」(石橋所長)と振り返る。計画段階のほか、施工手順なども詳細にモデル化し、現場内に設置した「サイトファクトリー」で製造した部材を組み立てる様子をカメラで撮影し、BIMモデルと進捗が合っているかも確認した。
部材の一つひとつにも3次元データを作成しているため、工場製作でそのデータを使用、正確な部材製作につなげた。3Dプリンターで設計図を形にして作業員に見せて作業説明にも使った。完成後もBIMモデルが生きてくる。i-Padにデータを取り込み、完成後の室内でi-Padをかざせば、天井裏の配管などが映るようにしており、テナントが入居時に取り付ける間仕切りの計画にも役立つ。石橋所長は「3次元データをさまざまなものと連携させれば、現場で有効に使える」と話す。目指したのは「クリーン・コンフォータブル・クール」の“3C”だ。シンガポールも、日本と同様に建設業は3K(危険・きつい・汚い)職種で敬遠される職業だが、その改善のためには製造工場のような現場改革が必要と感じた。
チャンギ総合病院メディカルセンター |
施工中のチャンギ総合病院メディカルセンター(9階建て延べ6万4497㎡)では、発注者である厚生省からBIMソフトはオートデスク社の「Revit」と指定された。設備や躯体などの各設計データを組み合わせて3次元総合図を作成し、納まりなどを調整、施工図を作成して展開図とした。天井の点検口の下に壁の張りだしがあって点検しにくくならないよう、点検口の直下に構造物が配置されない条件を設定するなどの配慮もBIMだからこそ容易にできた。
チャンギ総合病院メディカルセンター建設現場のBIM専用室 |
牛頭豊執行役員国際支店副支店長兼シンガポール営業所長は「病院の特徴として、完成間際にユーザーの要望が相次ぎ突貫工事になることも多いが、BIMなら工事前にユーザーに完成形を見せられるため、変更に対応しやすい」と話す。山田眞基所長は「BIMの施工図は、情報量が通常の図面の2-3倍になる。初期のモデル作成には手間がかかるが、調整などが非常に簡単になる」と効果を実感している。
現場には、施工図を作成するJVスタッフと、意匠、設備のモデルを作成する協力企業のスタッフが集まる「BIM専用室」を設けた。現在も天井内の設備の納まりなどを日々、BIMで確認しながら、手戻りのない施工につなげている。図面作成を外注せず、その場で調整できるため、迅速な対応が可能だ。品質管理も、i-Padで現場の写真を撮影してBIM図面に反映できるようにして生産性を確保している。山田所長は「実は最初の設計図のクオリティーが高ければ、BIMを使用する効果は薄い」と語る。設計のクオリティーが低いからこそ、レベル向上のためにシンガポール政府はBIM活用を強力に進めている。
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