劣化に伴うPC(プレストレスト・コンクリート)橋梁の架け替えニーズが高まるが、交通を止められず計画の実施に難航するケースも少なくない。新潟県内の国道では片側車線を供用したまま、もう片側を撤去するPC橋梁の架け替え事例が出てきた。この現場を下支えしたのは川田建設が開発した新技術だ。技術部技術課の渡部寛文課長は「初適用を足がかりに、これから積極的に売り込みを始める」と先を見据える。
橋梁の架け替えに際し、迂回路が確保できれば交通への支障はないが、地形的な制約から対応できないケースは多い。迂回路整備の費用もかさむことから、供用しながら架け替えができれば、全体工事費の削減効果もある。ただ、PC橋梁はコンクリートの中に鋼材を通し強度を高める構造となり、道路片側を供用したまま、残り片側を撤去するためにはPC鋼材を緊張状態のまま作業する必要がある。
同社が開発した新工法「アイ・フィクス」は、独自のくさび技術を使って横締めPC鋼材を中間定着するもので、10年もの歳月をかけて完成にこぎ着けた。渡部氏は「中間部で緊張材をしっかりと固定するアイデアが出るまで試行錯誤の連続だった。完成してみれば簡単な仕掛けだが、これがひらめくまでに時間がかかった」と振り返る。
1本感覚で中間定着 |
実用化した背景には、2つの技術的ポイントがあった。その1つが緊張材の固定方法だ。現在のPC橋梁で使われる緊張材は鋼線をより合わせた「より線」が一般的だが、2000年以前の橋梁では単線状態の鋼線を使っており、単純なくさびを使った固定方法ではズレが生じてしまう。
更新期を迎えたPC橋では、そうした単線状態への対応が焦点の1つになっていた。縦にふたつ割りしたくさびで挟み込む仕組みでは、単線状態の緊張材をしっかりと挟み込むことが難しい。そこでくさびの割り込みを斜めにしたことで、包むように挟み込むことに成功した。
もう1つの技術的なポイントは、中間定着部の力を吸収する部分だった。片側車線を供用したまま工事を進めるため、供用車線側の緊張材を維持しながら工事を行う必要がある。そこで緊張材を把持しながら定着力を発生する中間定着具と、定着力をコンクリートに伝達する調整支圧板の2種類を考案し、順を追って作業を進める流れも確立した。
撤去後の初適用現場 |
初適用の現場では長さ60m分を撤去した。50cm間隔の緊張材を1本置きに露出し、そこに定着部材を取り付ける流れとなった。まずは緊張材に中間定着具を取り付け、くさびに圧力をかけた上で支圧板をセットする。撤去側の緊張材を切断し、残した緊張材の張力調整を行う。渡部氏は「定着部の中だけで力が移動するため、コンクリートへの影響は出ない」と説明する。
工法は、施工効率の面でも効果を発揮する。構造がシンプルであるため、取り扱いが容易となり、結果として短時間で施工が完了する利点もある。コンクリートをはつり、緊張材を露出した状態であれば1日に7、8カ所を作業できるという。初適用現場では技術協力として参加した同社だが、今後は元請受注も含め、積極的に営業提案する方針だ。
国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)登録とともに、海外への展開も視野に入れている。渡部氏は「世界各国に同じようなPC橋梁がたくさんあり、海外の需要も大いにある。まずは国内で実績を積み、海外に輸出したい」と力を込める。
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