2016/12/25

【建築文化】変わる海外との関係 技術交流図る山下設計と短期建築留学を実施するJaDAS


 日本の近代建築は海外の「お雇い外国人」から始まり、その後も多くの建築家が海外の知見を日本に輸入することで発展してきた。現在もそうした傾向が残る一方で、近年は単なる流行のデザインや設計手法を学ぶだけではない海外との関係が生まれている。山下設計はアジア地域の人材を継続的に受け入れ海外との技術交流を図っている。また、海外交流プログラムを主宰する矢野拓洋氏(JaDAS)は、学生が欧州の最新の建築文化と出会うための場所づくりに取り組んでいる。写真は山下設計に招かれたフェルナンデス氏(左)とグスマン氏

◆山下設計 エンジニア受け入れ 先進と伝統の技術伝える
 山下設計では、科学技術振興機構が主催する日本とアジアの科学交流事業「さくらサイエンスプラン」に参加し、毎年アジア各国からエンジニアリング分野の研究者を受け入れている。ことしは東ティモールの東ティモール国立大学から2人の構造・設備分野の研究者を招き、庁舎や競技場などの現場や伝統建築を案内した。
 設備分野の先進的な知見を学ぶため来日したというグスマン氏は、「使いやすいデザインや環境への配慮など、あらゆる建物が印象的で学ぶことが多かった」とし、「日本の高度な技術を学び、わが国の発展に生かしたい」と強調した。特に、山下設計が担当した群馬県の高崎市新体育館は「日光をふんだんに取り入れた設計で、いままでに見たことのないアリーナだった」と驚きを語った。東ティモールでは閉鎖的な体育館が多く、外部環境を取り入れて開放的な日本との設計思想の違いが印象的だったという。
 構造分野を専門とするフェルナンデス氏は、日本の技術力の第一に免震装置を挙げた。東ティモールはアメリカの建築基準を適用しているが、日本と同様の地震大国であり、発生のたびに大きな被害が生じている。「東ティモールには免震構造の建物がないが、先進的な技術は非常に参考になった」と交流の意義を語った。また、京都を訪れた際に見学した伝統建築の多くが柱を礎石で受けている点を挙げ、「わが国の木造建築は(柱を地面に埋める)掘建柱建物が中心であり、その違いに驚いた」と建築文化の差異を実感したという。
 直接的な仕事に結びつく事例は少ない研修生受け入れ事業だが、高い技術力の紹介を積み重ねることで日本の設計者の力は着実に世界に広がっていく。

◆JaDAS デンマーク短期留学 参加して自らの成長実感


矢野拓洋氏

 デンマークで活動する矢野氏が主宰する「JaDAS(Japan and Denmark Architectural Studies)」は、デンマークと日本の学生が参加する短期建築留学を毎年実施している。ことしは首都コペンハーゲン南部で、ホームレスタウンとなった地域「スンホルム」を再生するデザイン案を両国の学生が共同提案した。
 同地区は周囲が堀で囲まれ、ホームレスやアルコール・薬物依存者などを収容する場所として機能してきた。堀が埋められた現在も周辺地域との断絶が課題となっており、ホームレスなどを支援する市のアクティビティセンターから地域をつなぐアイデアを求められた。
 プログラムには日本から15人、デンマークから8人の学生が参加し、3チームに分かれて解決策を模索した。アクティビティセンターの職員も含めたパブリックミーティングを経て、外部との境界に公園を整備する案やホームレスの社交性に応じた生活空間を整備する案、路上駐車を減らしホームレスの受けるストレスを軽減する案などをまとめた。
 矢野氏は、海外での体験を通して「日本と海外の違いを知ってほしい」と語る。パブリックミーティング形式で議論を進めるのも、「参加者が当事者意識を持って議論し、自分たちが参加してアイデアが成長したという実感が得られるから」という。日本とは異なる設計のプロセスや働き方に驚き、戸惑う経験から建築文化の違いが見えてくる。と同時に「海外を知って気付く日本の問題もある。そうした建築家を増やすことで、日本の建築をともに変える仲間を増やしたい」と強調する。
 来年は日本とデンマークの国交樹立150年を迎える。「お互いの文化をより深く知る機会にしたい」と話し、JaDASの活動をさらに広げていくと意気込む。
 西洋建築の技術輸入から始まった日本建築は、建築文化の交流を通して相互に高め合う新たな局面を迎えている。
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