2016/02/07

【インタビュー】機能だけでなく「空間の中で何が見えるか」重視 JIA新人賞の河内一泰氏


 千葉県の郊外にある8戸のアパートを個人住宅へと大胆に改修した作品『アパートメント・ハウス』でJIA新人賞を受賞した。既存の構造のグリッドを「切断」し、8つの小さなスペースをつなげることで生まれた独特の距離感が「居場所の選択の可能性を開いている」と審査委員から高い評価を受けた。建築のリノベーションやコンバージョンが増加する中で、建築家は既存建築とどう向き合うべきなのか。河内一泰氏(河内建築設計事務所)に聞いた。

■アパートを個人住宅に大胆改修
 これまでにも多くのリノベーションを手掛けてきた河内氏は、「ゼロから形をつくるのではなく、日常的な空間を活用しながら変化させていくのが面白い」とその魅力を語る。重視するのは「構造」の改変だ。「建築計画とは場所と場所の関係性を解釈すること」と指摘する。空間同士の関係性を決める構造を改変させなければ新しい空間を生み出すことはできないという。「壁や床といった構造に手を加えることで、場所同士の関係が新しくなる」と考える。特に近年のリノベーションは、耐震性など構造上の問題から実施することが多く、施主側の構造への関心も高まっていると感じている。

外観(撮影:阿野太一氏)

 『アパートメント・ハウス』は壁や床の切断面から生まれる幾何学的なデザインが構造上の特徴となっているが、その根底にあるのは「思いもよらないものが見えたり、思いもよらない場所から見られたりする非計画的な出会いが空間を豊かにする」という考えである。
 重視したのは「パッチワークのように遠くの風景も近くの風景も同時に見える密度の高い風景」だ。日本庭園が借景を利用することで遠くの山を庭に取り入れて豊かな空間を実現するのと同じように、壁や天井に開けられた穴はアパートのグリッドを歪め、力強い幾何学的なデザインに視線を集めることで訪れた人間に独特の距離感をもたらす空間を生み出した。
 「機能的なだけの建築は退屈だ。空間の中で何が見えるかが重要であり、それは住宅でも商業施設でも公共空間でも共通だ」と強調する。

■パッチワークのような密度の高い風景
 「密度の高い風景」を重視せざるを得ない背景には、「機能を満たすには多くの部屋が必要だが、部屋が増えると空間が狭くなる」という住宅建築の抱える矛盾がある。そこで、今回の作品では壁や床を切断することで空間に連続性を持たせ、必要な機能を確保しながらもそれぞれの場所を少しずつつないでいった。

内観。独特の距離感をもたらす空間となっている

 「かつての建築はたくさんの人に空間を『分ける』ことが求められていたが、人口減少社会では、空間を『つなぐ』ことがさらに重要になってきている」とし、今後の空間づくりにおいては、量の確保から質の向上へと意識を転換する必要性を指摘する。
 建築家・難波和彦氏の事務所を独立後、「短期的な利益よりも、建築の社会的な責任や長期的な利益を重視して設計をしてきた」と話す。
 自らの活動の社会的な意義について不安を抱くこともあったというが、今回の受賞によって「これまでの活動を評価してもらえたことがうれしい」と率直に喜びを語る。
 今後は「建築は固く動かない不自由なものだが、その不自由な建築でしかできないことを考えて、これからも設計をしていきたい」という。
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