2016/02/06

【建築】社会の要請を表現してこそ H2O設計室の「都幾川緑のハイブリッドガラスハウス」


 社会とつながる開かれた建築を--。第3回埼玉建築文化賞で最優秀賞を受賞したH2O設計室一級建築士事務所(森大樹&小埜勝久共同主宰、さいたま市)の森大樹氏は「施主と設計者の中で完結するデザインでなく、社会が必要としていることが表現されていなければ文化として広がりを持たせることはできない」と力を込める。

 受賞作品の「都幾川緑のハイブリッドガラスハウス」は、施主が東京出身の老夫婦で、都幾川の渓流沿いに建つ終の棲家。川の清流や秩父山系に連なる山々の景色を取り込むことや周辺環境との調和を目指した。1階が車庫、2階が居住空間となる高床式で、居住空間は渓流側(南)を中心に3面ガラス張りとなっている。部屋と廊下は日本家屋の構成で、すべての動線を広縁のように回遊できる。昔の日本家屋では近所の人たちと憩う場だった広縁とガラス壁との組み合わせで、周辺住民とのつながりを期待する。一方、プライバシーを確保するため、建物内部に木で囲まれた空間を設けるとともに、県道が通る玄関口へは人に見られることなく回遊できる裏導線を確保した。
 竣工後、施主から「川ではカワセミが飛び、6月には蛍が見られる」との言葉を受けた。
 森氏は社会に対し、疑問や問題点を提示することを意識している。今回の作品は、社会や自然とのつながりを重視する施主と設計者が意識を共有し、地域に溶け込んだ建築を生み出した。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【隈研吾】木の建築に「圧倒的な技術と知恵」持つ日本に期待 木材シンポで  「私たちは自然の材料をもっと尊敬してよいのではないか」。建築家の隈研吾氏はこう語る。中国やフランス、米国など世界中で「場所と建築の一体」に挑戦してきた隈氏は、日本人が里山の資源を頼りに、自然に寄り添い暮らしてきたことについて、「かつて黒川紀章氏らが提唱したメタボリズムに通じるものがある」とした。5月18日に岐阜市のぎふ清流文化プラザ長良川ホールで行われた「公共建築物の木材利用推進シンポジウム」の一コマ。  木造建築物は経年などで傷んだ個… Read More
  • 【建築】寺院における居住空間と真摯に向き合う 島田義信建築設計事務所の「慈光庵」  島田義信建築設計事務所(埼玉県熊谷市)の島田代表は、「慈光庵」で2014年第2回埼玉建築文化賞の優秀賞を受賞した。慈光庵は、庫裡(くり)と呼ばれるお寺の住職の住宅だ。出身地である同市に建てられたこの住宅では、内と外の関係と真摯に向き合い、庫裡がどうあるべきかを模索した。(撮影:石田篤写真事務所)  設計の際は自然とのつながりをコンセプトに設定した。ポイントとなるダイニングを工夫し、大きめの窓を用いた。窓は視線を外と合わせるために、テー… Read More
  • 【都市を語る】複数エリアが連携する結節点としての「多核心型」都市 大草徹也氏(三菱地所設計)  これまで『丸の内オアゾ』(2004年)や『パレスホテル東京』(12年)、台湾の『台北南山広場』(17年竣工予定)など国内外で多くの超高層プロジェクトに携わってきた大草氏は、その設計においては「都市の結節点として周辺をどうつなぐかが重要な役割」であると指摘する。完成すれば日本一の高さとなる常盤橋街区再開発においても、日本橋と八重洲をつなぐ接点として周辺街区を含めた拠点となることが期待されている。「バブル期の東京一極集中の反省から都市を地方… Read More
  • 【安藤忠雄】目標とビジョンのある建築を、勇気を持って 講演会『可能性を求めて』@東大  「楽しい建築をつくる時代は終わったが、まだやるべきことはある」。建築家の安藤忠雄氏は5月22日、東京都文京区の東大安田講堂で講演会「『可能性を求めて』--歴史と未来」を開き、参加した東大生らに建築の仕事に携わる心構えを説いた=写真。  講演会の冒頭に自らがん闘病について触れ、すい臓と脾臓を摘出した後も仕事を継続していることを紹介し、「仕事へのビジョンがあれば働くことができる」と強調した。一方で新国立競技場を巡る混乱についてはビジョンのな… Read More
  • 【名古屋城】天守閣木造復元、賛成が6割強 2万人市民アンケート  名古屋市は1日、名古屋城天守閣の木造復元構想をめぐる整備方法など、その方向性の参考とするため実施した2万人アンケートの結果を公表した。復元に賛成する回答は62.1%となり、現天守閣の耐震改修に賛成する26.3%を上回った。(photo: Miya.m)  アンケート用の書類は先月6日、無作為に選んだ市民を対象に発送していた。河村たかし市長が提唱する2020年7月東京五輪開催に合わせた復元案に賛成する回答は21.5%だった。また、期間に… Read More

0 コメント :

コメントを投稿