タカラスタンダードが、内装材市場に本格参入する。これまで水まわりを中心に販売していたホーローパネルを進化させ、非住宅のロビーやホールの壁面に売り込む。「パブリックアートの転写も可能になった」と、同社事業開発部の西海泰弘パネル事業課長はインクジェット印刷技術の導入に手応えを感じている。東京五輪を機に首都圏の建設需要が一気に高まりを見せる中で、同社は2020年度をめどに出荷ベースで年間20万㎡の事業規模に育てる計画だ。
ホーローは金属の上にガラス質の釉薬を塗り、850度もの高温で焼成した素材。表面をナイフで引っかいても傷つかない硬さに加え、ガラス質の表面特性から汚れにも強く、清掃性も高い。同社はホーロー総合製品メーカーとしてシステムキッチンや浴室などを販売する中で、水まわり周辺についてはホーローパネルの提供を進めてきた。
1月から販売を始めたホーロー内装材「エマウォール」は、住宅だけではなく、オフィスやマンション、商業施設、ホテルのロビーやエントランスなどを演出するインテリア素材として位置付ける。塗井啓介パネル事業課係長が「ホーローパネルと比べてデザインの幅は格段に広がった」と強調するように、標準色柄だけで22種類をラインアップした。画像データさえあれば、自由に転写できることも強みだ。印刷技術の刷新によって実現した。
これまでは転写紙製法を使い、ホーローパネルに着色してきた。色ごとに版を重ねた転写紙が必要になり、色数にも制限があったため、複雑なデザインはコストが高くなる課題があった。そこでインクを直接吹き付ける欧州のインクジェット印刷技術に目を付け、ホーローへの転写精度を検証してきた。
白色ホーローに画像データを転写し、再度焼成する |
下地として白色のホーローを製作し、その上にインクジェットで直接印刷したのち、もう一度釉薬を塗って焼成する独自工程を確立した。2度焼きが、製品化への道を開いた。ガラス質の下地表面にインクを染みこませる部分には技術的なノウハウがあり、特許も取得済み。無機のインクを使っている点もアピール材料の1つだ。従来に比べて印刷コストを大幅に削減できたことも事業化に弾みを付けた。
地下道通路にも対応できる |
既に同社はビル外壁や地下鉄の壁などエクステリア向けにホーローパネルを提供し、ピーク時には年間8万㎡を受注してきた。より競争が激しい内装材市場では「コストをどこまで引き下げることができるかが、市場開拓のポイント。単色比較でエクステリア向けの価格に比べて2分の1程度まで持っていきたい」と西海氏は考えている。販売開始時の希望小売価格は柄ありのパネルで1㎡当たり最小1万3800円とした。
インクジェット印刷の強みは、壁に巨大なアートが描ける点だ。複数のパネルを組み合わせるベントタイプはパネル1枚が幅2700mm、奥行き1050mm。これを金具で固定すれば壁一面の巨大なパネルが完成する。住宅の内装向けには最大で幅2700mm、奥行き910mmのフラットタイプを用意した。これまで大判サイズがなかっただけに、より多様なニーズを取り込む製品基盤が確立した。
同社の渡辺岳夫社長が「新たな柱に育てる」と期待するように、ホーロー内装材事業にかける同社の思いは強い。パネル事業課を管轄する事業開発部の営業を従来の2倍となる30人体制に拡充したほか、製造工場ではインクジェット印刷機を積極導入し、印刷能力をこれまでの3倍増に拡充させた。パブリックスペースへの導入機運を高めるため、10件ほどの試行プロジェクトも動かす方針。いずれは海外への展開も視野に入れている。3月には全国十数カ所におよぶプロユーザー向けショールームの中で、東京、名古屋、大阪の3カ所に「エマウォール」の展示も決めた。
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