2016/09/06

【鬼怒川緊急対策】国内初のハード・ソフト一体激甚災害対策特別緊急事業の現場を公開


 2015年9月の関東・東北豪雨災害から10日で1年を迎えるのを前に、関東地方整備局下館河川事務所は、鬼怒川緊急対策プロジェクトの現場を報道陣に公開した。総事業費約600億円を投じ、20年度の完成を目指す国内で初めてハード・ソフト一体で進む激甚災害対策特別緊急事業として注目される。写真は堤防が新設された若宮戸地区

 今回の豪雨被害は線状降水帯と呼ばれる積乱雲で、長時間強い雨が降り続き、鬼怒川流域各地で観測開始以来最多の雨量を記録。7カ所で溢水(いっすい)し、茨城県常総市三坂町地先では長さ200mにわたって堤防が決壊するなど97カ所が被災した。同市の3分の1に当たる約40km2が浸水し、解消までに10日を費やしたほか、約4300人が救助された。堤防決壊個所の応急復旧は各地の河川防災ステーションなどの備蓄資材を使用して約2週間という短工期で完了した。
 その後、鬼怒川下流域(茨城県区間)で水防意識社会を再構築するため、国や県、常総市など7市町が主体となった鬼怒川緊急対策プロジェクトを立ち上げた。約44.3㎞の対象区間で再度災害防止に必要な河川整備を緊急・集中的に実施するとともに、避難を促すためのソフト対策を沿川自治体と連携して取り組んでいる。
 ハード整備では、決壊個所の堤防整備を完成させたほか、溢水個所は下流への影響を考慮しつつ、段階的に整備を進めている。漏水個所は16年度末までに整備を完了するほか、その他の堤防や河道掘削は下流から順次行うことにしている。測量がほぼ完了し、構造物関連20カ所の地質調査や築堤護岸の詳細設計、樋管設計などを進めている。用地は第1弾の用地境界確認を関係7市町合わせて約40ha(地権者延べ1000人)で実施。第2、第3弾も予定している。施工中の工事は34カ所で、さらに13件の工事を契約する予定だ。
 堤防が決壊した左岸21㎞付近の常総市上三坂地区は、上流工区が鹿島、下流工区は大成建設の施工で1月に着工し、5月下旬に工事が完了している。大規模溢水があった同24㎞付近の若宮戸地区は全体1458mのうち、下流940mを渡辺建設と松浦建設の2社が施工。洪水時の水位を50cm上回る約3.2mの堤防が新設され、沈下状況を確認した上で実施する2期工事で、さらに約1.6mを盛土する。残る上流区間518mも用地取得後に着工する。
 左岸32.5㎞付近の下妻市前河原地区は、山中組の施工で約650mの堤防を新設している。早期完成に向けて従来の鋼矢板2枚分を1度に打設できるハット型鋼矢板を採用。工場製作品の笠コンクリートで現場打ちの工程を省略し、ICT(情報通信技術)施工による盛土の締め固めや法面整形など品質管理の自動化により効率よく作業を進めてきた。

里村真吾下館河川事務所長

 ソフト対策では、全国に先駆けて国、県、市町が一体となって水防災意識社会を再構築するため、鬼怒川・小貝川下流域大規模氾濫に関する減災対策協議会を設置。「逃げ遅れゼロ」「社会経済被害の最小化」を柱とする取り組み方針をまとめた。具体的には広域避難を考慮したハザードマップの作成・周知や避難勧告の発令に着目したタイムラインの作成、防災教育・防災知識の普及、より効果的な水防活動の実施と水防体制の強化、緊急排水計画案の作成と排水訓練を実施している。
 これらの取り組みを陣頭で指揮する里村真吾下館河川事務所長は「思いつくことはほとんどやっている。全国に発信しつつ、他地域の良い取り組みを共有したい。ハードで一定の安全は確保するが、ソフト対策も重要だということをひとり一人に語り掛けていきたい」と語っている。
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