研究は、建築の中でも空間デザインが、人の知的活動にどのような影響を与えるかを調べるのが目的だ。オフィスや学校で、壁の色などの環境がどうあれば潜在的な知的能力を引き出せるのか。医療や介護空間では、リハビリや高齢者の認知機能を向上させるのか。ホテルや住空間においては、脳活動を癒すことができるのか、といったことを明らかにする。
渡邊准教授は「脳科学の手法を組み込むことで、より科学的な研究データに基づく検証を行い、どの色彩の環境が知的活動を活性化させるのかを明らかにしたかった」と話す。
今回の研究で使用したウエラブル光トポグラフィは、近赤外分光法(NIRS)という原理を使って、人の前頭前野の脳活動量を視覚化する。機器は、リアルタイムで脳活動が活発な場所をサーモグラフィのように示す。
各色のブースごとの脳活動マップと時系列波形 |
実験結果は、黄色のブースが最も脳血流が活発で、次いで赤、白、青と続いた。また問題の正答率では、黄色は88%、赤は87%、白は80%、青は71%と、血流の活発さと同様の傾向が現れたという。
被験者に行ったアンケートでは、最も正答率の高い黄色ブースに対して「明るい」「派手な」印象を強く与えていることが分かった。ブースの色彩は、疲労状況でも違いがあり、実験後の生理状況アンケートでも色による疲労感の違いが明確になった。
研究に携わった研究室建築学専攻修士2年の一志哲夫さんは、「現時点では、情報処理の知的活動を活性化させるには、脳活動量を活性化させることが有効だと分かった。また、活性化には、活動を行う室内環境が影響を及ぼしている可能性がある」と分析する。
脳活動量の測定結果と正答率が一致した |
これまで建築という世界と脳科学の間にはあまり接点がなかったが、渡邊研究室では、建築デザインがそこで活動する人にかかわることができるということを証明しつつある。渡邊准教授は「今後は、空間の大きさや色彩、作業時間、作業内容などを変えて、知的活動を支援する環境デザインを明らかにしていきたい」と意欲を示す。
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