2015/05/24

【建築学会】東日本大震災4周年シンポジウム 顕在化する残された課題、どう取り組む

日本建築学会(吉野博会長)は18日、東京都港区の建築会館で東日本大震災4周年シンポジウムを開いた。国が定めた集中復興期間が今年度で終了するが、「残された課題が顕在化してきた」と吉野会長は指摘する。建築に関連する復興が本格化しようとする中で、建築の専門家はどんな役割を果たせるのか。シンポジウムでは、被災地の現状を整理した上で、専門家が果たすべき役割を議論した。

 被災地の現状説明において共通の課題として取り上げられたのは、中長期的な仮設住宅のあり方だ。岩手県について説明した岩手大学地域防災研究センターの菊池義浩特任助教は、「大規模な仮設住宅や災害公営住宅が建設されたことによる周辺への影響が出始めている」とし、学校の校庭や住宅街に仮設住宅・災害公営住宅を整備したことで交通量が極端に増加した例を紹介した。「復興過程における問題が顕在化してきた」とみており、仮設住宅の空室も増加し、統廃合など中長期的な計画の重要性も指摘した。
 宮城県の状況を説明した東北大学の佃悠助教も「仮設住宅の集約、撤廃への道筋が見えていない」と懸念を示す。石巻市のように大量の仮設住宅ストックを抱える地域もあり、「建築の質や敷地活用といったハード・ソフトの両面から仮設住宅のあり方を考え直さなければならない」と語る。
 福島県で仮設住宅のコミュニティーについてフィールドワークを重ねる法政大学の岩佐明彦教授は、「住民の暮らし方に大きな差が生じてきている」と指摘する。入居率が高く、緑の空間を取り入れた仮設住宅のカスタマイズや交流スペース活用を積極的に進める地域がある一方で、住民同士の交流が希薄で閉鎖的な地域も現れており、「仮設住宅の居住の長期化による環境の劣化」を危惧。「仮設住宅の多様な住まい方が増えている一方で、コミュニティーが崩壊し、その状況を外部に発信することすら出来なくなっている例もある。外からは分からない居住環境を面的に把握する方法が早急に必要だ」と強調した。
 復興まちづくりにおける専門家の支援のあり方について講演した弘前大学の北原啓司教授は、こうした問題が生じた理由について「方法が目的化してしまっていた」と分析する。地域住民や行政担当者が復興の目標像を共有することなく、ただ大量の仮設住宅を供給するために防災集団移転事業や区画整理、復興公営住宅の建設などを進めた結果であると振り返る。このため、専門家には「その地域で本当に必要なものは何か、実現したい目標を共有できているのか、被災者や行政担当者に問いかけ続ける必要がある」という。
 こうした状況を打開するために必要なのは、「計画の見直し=失敗という短絡的な思考を脱却すること」とも指摘する。「現在の災害復興に関連する各種法制度の問題、隙間を今のうちに改正することも将来発生する震災の事前復興になる。4年間の経験で明らかになった問題を整理し、法制度の緊急整備を進めるべきではないか」と提起した。
 続いて行われたパネルディスカッションでは、建築家の古谷誠章氏らも参加し、次の震災に備えて専門家の役割について議論した。古谷氏は今回の震災の大きな教訓を「仮設住宅といえど、居住環境をハード、ソフトで認識しなければいけない点が明らかになった」とした。
 その上で、「人口縮減期に入った日本には利用されず残されている施設も多い。そういったストックを自治体や住民が把握し、最低限のメンテナンスをしておけば避難所も仮設住宅もいらない地域は各地にある」と強調。南海トラフ地震のように大量の仮設住宅が必要になる災害への対策として地域の建築ストックを管理する重要性を指摘した。
 専門家の役割については「地域の人がどうしたいのかを時間をかけて聞き取り、それを実現するための手伝いをするべきだ」という。「災害が起こってから復興に参加するのは困難だが、日常的に交流があれば非常時にその関係はますます有効に機能する。建築の専門家は、普段からまちづくり活動のようなかたちで、さまざまな地域に入っていく必要があるだろう」と語った。
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