2015/05/18

【山下PMC】都市発展のカギ握る「収益用途施設」 2020以降の建設学

収益用途施設! 都市に存在する事業用施設の大部分がこれに該当する。建物自体から家賃などの形で収益を得られる施設のことである。その主流をなすのが、5つの用途であるオフィス・共同住宅・商業施設・ホテル・物流施設と、これらを複合した用途施設だ。不動産開発各社が、大きな資本力と与信力によって主戦場としてきた領域でもある。こと建築そのものに関しては、つけ入る余地がないくらいの進化を遂げてきた分野ともいえる。写真は5月15日にグランドオープンした「テラススクエア」(東京都千代田区)。

 現在も開発は活発であり、大都市の至るところで工事看板を見つけることができる。高度成長時代に建設された多くの施設が償却時期(耐用年数)を迎え、次世代への新たな償却に向けて再び動き出そうとしているのである。ただ、読者の皆さんもよくご存じのとおり、収益用途施設には、収支計画が成立しなければ計画が前に進むことはない、という非情な掟が宿命づけられている。したがって建設価格が高騰している現在では、延期や中断を余儀なくされている案件も決して少なくない。それでもなお開発が減らないのはなぜなのだろう?
 1つは、ビルの統合や共同開発あるいは特区などの設定によって容積率の積み増しが可能になり、その分を新たな収益源として見込むことができるからである。そこにきて建物の老朽化や陳腐化によって失いつつある顧客誘致力を取り戻すための再投資の機会とうまく合致しているのである。だから「容積率」の緩和が今後の都市発展のカギを握ることは間違いない。都市の将来を担うべきエリアには、経済特区のような形でこの緩和措置が積極的に採用されるべきだろう。

 「日本」というブランドに惹かれるインバウンド
 そしてもう1つ、自然循環型の経済摂理に起因しないニーズが存在する。インバウンド(訪日外国人)がもたらす影響力である。直接的な影響を受けるホテルに始まり、商業施設や観光施設、さらにその複合施設、それらをつなぐインフラ施設に至るまで広範囲に及ぶ。日本国民からしてみればキツネにつままれたような思いだが、これは日本が10年以上の年月をかけて積み上げてきた成果である。今や「日本」は世界的ブランドだ。決して急に降ってわいた現象ではない。
 以前から日本文化や日本技術、日本のモノは世界から称賛を浴びてきた。近年、日本人の一部がそれに気づき、政府戦略も含め地道な招き入れ活動を続けてきた結果にほかならない。今後も堅調に拡大すると思うが、日本国民として本当に大事に育んでいきたいニーズである。
 建物単体ベースでいえば、物流施設の進化が著しい。アマゾンに代表されるような、あらゆる消費物を対象にするネット通信販売が隆盛となったことで、施設規模の大型化が進んでいる。加えて、これまで別々の法制度で存立していた営業倉庫と配送センターという異なる機能が、合体しパッケージ化されて新たな施設体系が生まれている。そこに高度なマテハン(マテリアルハンドリング)機械が装備される施設まで登場しているのである。まさに「必要なものを 必要な時に 必要なだけ」が具現化され、当日配送が現実になる社会が到来したのである。

情報端末は変革をもたらすか?
 このように、収益用途施設を建築分野におけるハードとしての一面からだけでみれば、技術的発展はすでに頭打ちのように感じられるかもしれないが、事業体系やソフト的分野からみれば、まだまだ多くの発展的余地が残されているように感じられる。そして、もし収益用途施設に技術的な意味において長足の進歩が訪れるとしたら、おそらくそれは情報と制御の分野ではないかと予想する。そして変革のカギは、スマートフォンやタブレット端末あるいは新しく登場しつつある腕時計型端末などのモバイルによってもたらされるような気がしてならない。モバイルが、中央監視やBIMあるいはCRE/PREに関するビッグデータをどのように処理し制御していくことができるのか!?
 さらに、これらが再び動き出したIFRS(国際会計基準)のような新制度と相まって、どのような事業スキームを形づくっていくのか!? 多角的な側面から見つめていけば、進化のタネは尽きないのではないだろうか。
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