2015/05/17

【本】伝説の建築家・前川國男の〝人間の生き様〟を描く1冊 『前川さん、すべて自邸でやってたんですね』

巨匠に伝説は付きものだ。建築家・前川國男もまた、安田講堂で卒業証書をもらったその足で神戸港から大陸へ渡り、シベリア鉄道でパリに旅立ったとされる。しかし伝説が積み重なるにつれて巨匠は神格化し、不可侵な存在としてまつられる。近代合理主義を標榜した建築家にとっては皮肉なことかもしれない。

 本書は人間・前川國男の姿をもう一度取り戻そうとする試みだ。数多くの前川建築を分析し、前川邸との共通点を丹念にあぶり出す。そこで示されるのは、近代合理主義を掲げながらも自らを律し、自問自答を繰り返して設計する人間の生き様だ。
 入所から最晩年までの約20年間をともに過ごした筆者だが、「ようやく距離を置いて前川國男を見られるようになった」という。死後30年を経て、なお人びとを引きつけるその力は、恐らく巨匠ではない人間・前川國男の魅力が支えていたのだろう。
(彰国社・2940円+税)

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