「(台湾の)台中オペラハウスはコンペから10年の歳月をかけて実現した奇跡的なプロジェクトだった。これ以上の建築を再びつくることは考えられない」。建築家の伊東豊雄氏は、11月にオープンする台中オペラハウスを自らの集大成に位置付ける。今後は、建築家のオリジナリティーを表現した「作品」づくりではなく、建築家としての活動・行動を重視する。その舞台となるのは瀬戸内海中央部に浮かぶ小島「大三島(おおみしま)」(愛媛県今治市)だ。4年前に伊東豊雄建築ミュージアムがオープンしたその島を「日本でいちばん住みたい島にする」という。島づくりの活動を聞いた。
島づくり活動に注力する大きな契機となったのは、2011年に起きた東日本大震災だった。被災地に足を運んだ伊東氏は、住民の集まる憩いの場「みんなの家」の設計に携わる中で、「(オリジナリティーを重視する)作品の概念を消し、住民・利用者と一緒になって建築をつくることの大切さを知った」という。
その背景には、設計者がインパクトのある提案をせざるを得ない公共建築での設計コンペの仕組みそのものに対する不満もある。「オリジナルな提案をしなければコンペに勝てないが、コンペ案の段階で住民の意見を取り入れることは難しい。しかし、それによって住民と対立することもある」と話す。その上で「建築家は住民・利用者・環境にもっと近づくべきだ」とし、「作品に対する概念を捨てることによって、より住民の思いをくみ上げた設計ができる」と考える。
大三島では、中心部にある大山祇神社の参道沿いの民家を改修した「みんなの家」の整備や古民家の修復再生などに取り組むほか、農業従事者のネットワーク化や参道マーケットの開催、電気自動車を利用した島内移動効率化の検討といったように建築から離れたプロジェクトにもかかわる。
「島づくりを進める過程で、さまざまな仕事を頼まれるようになった。コンペではなく、建築家が地域に入り込んだ活動をしていることで、面白い建築が生まれるのではないか」と手応えを感じている。
その中でも、いま一番にやりたいこととして挙げるのは、廃校になった木造校舎を改修した宿泊施設「大三島ふるさと憩いの家」の再整備だ。映画のロケにも使用された美しい木造校舎を「みんなの家」として活用することで、島内に多様な活動を広めたいとしている。
今後も住民、学生、伊東建築塾の塾生らと大三島の活動を展開していき、東京で建築設計業務に取り組みながら少しずつ「思考の中心を大三島にしていく」という。
「日本のモダニズムは行き詰まっている。明治期から続く西洋偏重の価値観を見直し、地方で昔から継承されてきたわれわれに染みつく文化に目を向ける必要がある」と強調する。
島づくりに取り組んだ塾生の中には、すでに島に移住して生活する若者も現れている。
「これからの建築家は大都市に向かって個性や表現を競い合う時代ではない。それぞれのプロジェクトが地味であっても、いかに地域を楽しい生活の場とするかが問われているのではないか。小さな活動を組み合わせ、その集積から日本におけるライフスタイルのモデルを示したい」
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島づくり活動に注力する大きな契機となったのは、2011年に起きた東日本大震災だった。被災地に足を運んだ伊東氏は、住民の集まる憩いの場「みんなの家」の設計に携わる中で、「(オリジナリティーを重視する)作品の概念を消し、住民・利用者と一緒になって建築をつくることの大切さを知った」という。
その背景には、設計者がインパクトのある提案をせざるを得ない公共建築での設計コンペの仕組みそのものに対する不満もある。「オリジナルな提案をしなければコンペに勝てないが、コンペ案の段階で住民の意見を取り入れることは難しい。しかし、それによって住民と対立することもある」と話す。その上で「建築家は住民・利用者・環境にもっと近づくべきだ」とし、「作品に対する概念を捨てることによって、より住民の思いをくみ上げた設計ができる」と考える。
民家を改修した大三島の「みんなの家」 |
「島づくりを進める過程で、さまざまな仕事を頼まれるようになった。コンペではなく、建築家が地域に入り込んだ活動をしていることで、面白い建築が生まれるのではないか」と手応えを感じている。
ふるさと憩いの家(撮影:高橋マナミ) |
今後も住民、学生、伊東建築塾の塾生らと大三島の活動を展開していき、東京で建築設計業務に取り組みながら少しずつ「思考の中心を大三島にしていく」という。
「日本のモダニズムは行き詰まっている。明治期から続く西洋偏重の価値観を見直し、地方で昔から継承されてきたわれわれに染みつく文化に目を向ける必要がある」と強調する。
島づくりに取り組んだ塾生の中には、すでに島に移住して生活する若者も現れている。
「これからの建築家は大都市に向かって個性や表現を競い合う時代ではない。それぞれのプロジェクトが地味であっても、いかに地域を楽しい生活の場とするかが問われているのではないか。小さな活動を組み合わせ、その集積から日本におけるライフスタイルのモデルを示したい」
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