2015/05/18

【インタビュー】建築教育の在り方とは ものつくり大学建築学科教授 深井和宏氏

人材の確保は建設業にとって大きな課題だ。高校や大学を卒業し、入職してもミスマッチで離職してしまうケースも多い。その解消に教育する側と受け入れる側、それぞれが取り組まなければならない。そうした中で、ものつくり大学はインターンシップの積極的な実施など実習を重視した教育を実践している。その教育に対する考えや取り組みなどについて深井和宏教授に聞いた。

--大学における建築教育について感じていることは
 「大学の技術教育は、構造、設備、環境にしても基本は設計教育なのである。つくる前に何をつくるのかを考える教育をしている。それに対して、どんなものをつくればいいのか、どうやってつくったら合理的に早く、安く良いものをつくれるか。製造業では当たり前にやっているモノをつくるマネジメントがいまの建築の教育では十分にできていない。そのため、図面を書いても、どんな材料で、どんな手順でつくればいいかを何も知らないで卒業してしまう。製造業ではむしろマネジメントに比重を置いて教育している」
 「当大学は“職人さんが現場でつくっている技能を大切にして、将来社会的にきちんと位置付けられる、モノをつくる現場の人たちを大事にする社会にしたい”という理念のもとに設立された。そのスタンスでカリキュラムを組み立て、授業をしている」

--どのような取り組みをしているのか
 「現場に比重を置き、直接体験させている。計画や構造、施工、CAD、歴史などを勉強した上で、実習している。講師が棟梁なので時間的には非常に厳しく、雨や雪でも実習を行わなければならないこともある」
 「実習では、木や鉄、コンクリートに触れて、例えば木であれば、その重さや堅さ、柔らかさ、節の形、肌合い、臭い、鉄であれば鉄筋を自分で曲げたり切ったりするから堅さや重さ、曲げたときの反動、すべてを五感で覚えることをさせている」

実習では木や鉄、コンクリートに触れて五感で覚える
「そのことは、例えば木造住宅を設計するときに、柱をヒノキにするのか、スギにするのか、あるいは節の堅さはどのくらいかといったことや隠れる部分であれば安いスギでいいといったことを自然に考えられるようになる。図面だけ書いていると木に触ったこともない、スギとヒノキの区別も付かないということになる。そうした体験があれば、どこかで思い出してから設計できるはずだ」
 「また、RCの建物であれば、鉄筋を曲げたり、型枠を組んだり、コンクリートを調合して流し込んだりさせる。場合によっては型枠を破裂させたりするけれど、そのことを知って卒業するのと、知らないで卒業するのとでは、卒業して現場に行く、設計するときの感覚が全く違うはずだ」
 「また、そうした体験は、官公庁や設計事務所、ゼネコンに就職し社会人となったとき、現場を監理(管理)しているときにも生きてくるはずだ。型枠を破裂させたことがある、鉄筋を曲げたことがあるというと、職人さんが心を開くのも早いと思う。職人さんの技能の優秀さや、大変な思いで実習をしたけれど、現場の人たちはこれだけ苦労しているといったことも分かる。そのことは彼らにとって自信になるはずだ。実際に就職後の定着率も高い」

--学内での実習のほか、インターンシップにも積極的だが
 「2年生で40日、4年生で40日ないし80日、インターンシップで実際の現場に行く。プロの人たちにもまれ、仕事の面白さなどモノをつくることを経験する。実際にモノにふれ、自然の素材を理解してモノをつくる経験をするから将来、設計するにしても現場で職人さんと付き合うにしても親和性が高い」

--自身が授業で取り組まれていることは
 「モノをつくるというのは、こんなモノをつくりたいというイメージをスケッチして、少しずつディテールを決めて、その中で柱、梁の位置、大きさを決めて、機能設計、意匠設計を行い、材料選定し、拾い出しをして、発注、そして材料が入ってきたら加工して組み立てる。骨組みが終わったら仕上げとなる。それを分業化せずに、全プロセスを体験させるようにしている。そのことによって、クオリティー、コスト、スケジューリング、安全管理、環境管理、マネジメントまで考えて設計できると考える」

■横顔
 木造建築の現場のつくり方を中心に調査・研究してきただけに、棟梁の技術や技能などを高く評価する。明治維新から約150年。わが国には、それ以前は木造建築しかなかった。設計施工の仕組み、設計施工という言葉のない時代にも日本の建築はつくられた。それを支えてきたのは町場の大工さんだ。彼らは明治維新後のレンガづくり、ルネッサンス様式の建物も見ただけで、内側は木造軸組でも、その形はつくることができた。「それは町場の木造建築をつくる骨太な生産システムがあったからであり、町場の大工の棟梁は頭の中にBIMがあったのだ」とし、大工の棟梁的技術者が大事だと考えている。「日本人が日本建築の棟梁を尊敬していない。設計から施工までまとめ上げる能力がなければ棟梁にはなれない」と話すほどだ。
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