2015/07/04

【佐藤工業】震災乗り越え進むハード・ソフトの事業 地下鉄東西線薬師堂駅・あすと長町スポーツタウン

6月中旬、佐藤工業が仙台市内で進める2つのプロジェクトを取材した。1つは同社が土木・建築工事を手掛ける仙台市高速鉄道東西線の薬師堂駅(若林区)、2つ目は同社が事業者となって運営する「あすと長町スポーツタウン」(太白区)だ。ともに東日本大震災の影響で工事の一時中止を余儀なくされるなど、さまざまな困難に直面したものの、現在は駅舎建築工事もスポーツ施設の運営も順調に進んでいる。ハード・ソフト両面から震災復興への貢献が期待されている。写真は仙台市高速鉄道東西線のシールドトンネル。1台のマシンをUターンさせ、2本のトンネルを掘削した。

◆仙台市高速鉄道東西線の薬師堂駅
 薬師堂工区の土木工事、駅舎の建築工事はともに市交通局が発注。長さ999mのシールドトンネルや駅の地下躯体を整備する土木工事では、佐藤工業・不動テトラ・アイサワ工業・伊藤組土建JVによる施工中に大震災が発生した。工事は一時中断し、その後、労務や資機材が次第にひっ迫していった。
 現在は、後工程となる駅舎の建築工事を佐藤工業・深松組JVが進めており、完成が間近に迫っている。建築工事の奥野達也所長は、「当初は震災の影響で予定どおり現場に入れず、労務や資機材の不足もあり決して順調ではなかった。しかし、何とかここまで漕ぎ着けることができた」と本音を漏らす。
 震災の影響は多岐にわたるが、土木・建築がタッグを組んでさまざまな困難を乗り越えた。土木工事の平山国弘所長は「同じ会社のため風通しが良く、さまざまな調整が円滑に進んだ」と振り返る。奥野所長も「震災の影響による不安がある中で、身内がいるという心強さがあった」と話す。
 震災の影響は別としても、施工段階では市街地での工事に特有な課題が多かった。土木工事では、道路幅が20mしかなく住宅が目前に迫っているため、「沿道配慮と安全対策には特に気を遣った」(平山所長)。一方、シールドマシンは砂礫層を通過したが、「玉石をマシンに詰まらせることなく、いかに取り込むかが課題だった」(同)。

改札付近
建築工事では、「資材投入口がホーム端の1カ所しかなく、非常に苦労した」(奥野所長)。この課題の解決に向けて本社とも連携しながら対応策を模索したが、エレベーターを先行整備することで何とか乗り越えることができた。

切妻屋根の出口
東西線の駅舎は、駅ごとに異なるデザインを採用しているのが特徴の1つ。薬師堂駅は、宮城野萩と大樹をデザインに取り入れ、「人々が和やかに集う『庭』」を表現している。
 市民のさまざまな期待を乗せた地下鉄は、12月6日に走り出す予定だ。

◆あすと長町スポーツタウン


SRGタカミヤスポーツパーク
「あすと長町スポーツタウン」は、佐藤工業がスポーツ用品や紳士服の販売を手掛けるゼビオ(福島県郡山市)と運営するスポーツ複合施設。佐藤工業は命名権ビジネスを組み込んだスポーツ施設「エスアールジータカミヤスポーツパーク」や飲食店施設を展開し、ゼビオは多目的に使えるアリーナとスポーツクラブ、スポーツ用品店を運営する。スポーツクラブの会員は当初計画を上回り、ロッカーが不足するほどの盛況ぶりだ。

フットサルコート
あすと長町の先導的なプロジェクトだったが、震災の影響で工事が一時中断し、完成後は施設の一部を無料開放した。佐藤工業は、暴風雪に強いドーム施設、太陽光パネル、地下水利用設備などのハードを活用し、災害時の帰宅困難者の受け入れで市と協定を結ぶなど、ソフト面からも独自の取り組みを展開している。
 当時、東北支店でこのプロジェクトに携わっていた山梨弘幸建築事業本部営業部営業課課長は、「こうした施設の運営に携わっていると、営業の幅が広がる。(収益事業として)お金をもらいながら勉強させてもらっている感覚だ」と話す。事業の多角化、そのノウハウの蓄積という点でも大きく貢献している。
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