2016/07/01

【記者座談会】鹿島・職人直用会社設立のインパクト 職人の多能工化が目指すもの

A 鹿島が6月下旬に職人を直用する専門工事会社を設立した。
B 鹿島の考え方は既に押味至一社長が示していた。同業他社のトップは直接、押味社長に内容を聞いて、自社内で確認作業をした。結果は「当社では必要ない」と判断したようだ。

C 建設業は、アッセンブリー(パーツの組み立て)産業であり、ゼネコンは建築または土木工事を一式で直接請け負う役割だ。その意味では、ゼネコンが一部パーツについて職人を雇用して直接手掛けるということは驚きだ。
A 合理的で経済的という理由で、今に至る重層下請構造が確立されたということを考えると、鹿島にとって一部調達で新たなリスクになるような気もするけど。
B 人口がピークアウトを迎える以前だったら、その理屈も成り立つと思う。ただ、建設産業界が抱える生産システムを、実際に担う職人の高齢化と職人の数そのものの減少という、2つの問題に直面している今、単価を上げれば手当できるという時代はいずれ終わるのは確実だ。
D その意見には賛成だ。そもそも労働力数をマクロで見て、建設産業の需給ギャップを論じる傾向があるが、もっと細かく見なければ、建設生産システムの供給網のボトルネック(制約)は把握できない。はっきり言えば工種ごとでなく、細かな職種ごとの供給力を判断しなければならない。1つの職種の遅れが全体工程に影響を与えかねないからだ。
B 鹿島が中長期で供給力を維持するための初弾として、直用の職人を抱える新会社を設立するなど新たな対応に踏み切るのは、ゼネコンの壮大な実験という意味でも興味深い。
A 壮大な実験とはどういう意味なの。
B 鹿島が最終的に目指す多能工化が実現できれば、どのようなことに波及するかを考えてほしい。鹿島の動きが進めば、高齢化と労働力が減少し供給力そのものが落ちても、下請けと職人は多能工化による生産性向上で、1つの現場にこれまで以上に長く仕事ができ、現在の職人の賃金形態である日給月給でも手取り収入が増える。多能工化で職人が少なくなれば事故のリスクは当然下がるし、元請けは工程遅れのリスクも軽減でき、下請けと職人の元請専属意識も高まる。この好循環のかぎの1つは現行の賃金形態である日給月給だ。さらに専属割合が高まり、うまくすると、下請けの職人社員化が進むかもしれない。
E なるほど。国や建設業界で話題になっている、週休2日拡大が職人の収入増と現場の生産性向上によって実現する可能性があるということか。もともと今の収入のままでは、仮にモデル現場で週休2日を導入しても、低い収入を理由に他の現場へ応援にいく可能性が高いと言われている。さらに週休2日が確保されず、収入も低いままでは職人確保もままならないというのが建設産業の実態だからだね。
A 仮に下請けと職人の関係で社員化が進まなくても、多能工化で、1人当たりの労働生産性が上がることで、職人の手取りが増え工程もスムーズになれば、元請け、下請け、職人いずれにとってもメリットが生まれるということだね。
B 少なくとも今後日本では、欧米のような、移民受け入れで経済成長を続ける政策が実行される可能性はない。その場合、GDP(国内総生産)額を維持するにしても、1人当たりの生産額を上げなければ不可能だ。建設産業界も生産性を向上させなければ、供給力は維持できない。
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