2016/11/03

【本】ダム現場と技術者の実情を緻密に描く『昼間のパパは光ってる』 作者・羽賀 翔一氏に聞く


 ダムの建設現場で働く技術者を主人公に、仕事での葛藤や同僚、家族との人間模様を克明に描いた漫画の単行本『昼間のパパは光ってる』が発売された。プレジデント社のビジネスマンガ誌『PRESIDENT NEXT』で連載した15話に加え、描き下ろしの1話を収録した。作者の羽賀翔一氏は「土木の魅力や世の中の成り立ち方に興味を持つきっかけとなったらうれしい」と作品に込めた思いを語る。

 「仕事」をテーマにした漫画の執筆を依頼された羽賀氏は、編集者の提案でダムの建設現場に足を運んだ。「実際の現場を見て、まったく知らない分野だからこそ、先入観なく描けるのではないかと思った」ときっかけを語る。リアリティーを徹底的に追求するため取材のほか、土木技術者に下書きを確認してもらいながら作品を描き進めた。
 「ダムのマニアックな知識を伝えるのではなく、人間の生き様が描かれる作品にしたかった」ため、現場では「作業員の人となり」に焦点を当てて取材に取り組んだ。そこで家族と何年間も離れて暮らす現状や、阪神・淡路大震災をきっかけに土木の世界を志した作業員を目の当たりにした。漫画ではそうしたエピソードが主人公の家族との関係性やバックボーンに反映され、土木の世界で働く技術者の実情をより緻密に描き出している。

作者の羽賀翔一氏

 鹿島・竹中土木・三井住友建設JVが施工する大分市の大分川ダムの現場では泊まり込みで取材し、朝礼にも参加した。特に印象的だったことは「安全のために自らを律して作業する人々の姿」だ。トイレのスリッパが整頓されている様子や、けがを防ぐためポケットに手を入れない作業員を目にして「細かい部分への配慮の積み重ねによって、誤差なくスケールの大きいものが生まれている」ことを実感した。そのため「読者の興味を引くためだけに事故に遭うなどのエピソードを描くべきではないと思った」と強調する。
 連載時には「ダムの日」というタイトルだったが、単行本化に際して「土木に関心のない人にも手にとってほしい」との思いから、『昼間のパパは光ってる』という新タイトルをつけた。土木の世界がテーマの作品だが、そこで描かれている仕事への思いや苦悩などはいずれの職業にも共通する普遍性を備えている。羽賀氏は「それぞれの職業にそれぞれの葛藤がある。漫画を読んで明日も頑張ろうという気持ちになってほしい」と読者への思いを明かす。
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