2015/03/27

【担い手】好景気の今こそ現場の職人を守れ 伊勲章受章の安藤忠雄氏に聞く

建築家の安藤忠雄氏=写真(撮影:林景澤)=がイタリアの功労勲章であるグランデ・ウフィチャーレ章を受章した。同国の勲章を受けた日本の文化人としては映画監督の黒澤明氏、建築の分野では丹下健三氏に次いで2人目。ベネチアで手掛けた歴史的建造物の再生プロジェクトを始め、芸術文化の保護再生に貢献したことが評価された。イタリアでの活動を通じ「建築文化の力」を実感したという安藤氏。イタリアでのプロジェクトを振り返ることから始まった話題は、やがて施工の現場を担う職人たちに対する思いへと広がっていった。

 「イタリアとのつながりが深くなったのは、1990年代に入ってから。世界的なファッション企業・ベネトン社のルチアーノ・ベネトン会長との出会いがきっかけだ。ベネチア郊外のトレビーゾというまちにある17世紀に建てられたヴィラを再生し、世界中の若者のためのアートスクールとなる施設をつくってほしいと頼まれた」
 「設計を依頼した理由を彼に尋ねると、セビリアの日本館の仕事を見たという。92年に開かれたセビリア万博で、日本館のパビリオン設計を担当した。高さ30mの木造ワンルーム。前例のないチャレンジだったが、日本のゼネコンを中心とするチームが見事にこれを実現させた。安藤は厳しいプロジェクトをやり抜いたという評判を聞いて、仕事を依頼してくれたそうだ」
 「古いヴィラの姿はそのままに新築の建物は全て地下に納めることで『われわれのために心に残る建築を』というルチアーノのリクエストに応えた。これに続いて息子のアレッサンドロからも自宅の設計依頼を受けるなど、ベネトン家との交流は今も続いている」

プンタ・デラ・ドガーナ(撮影:小川重雄)
「このプロジェクトの後、今度はフランスの実業家、フランソワ・ピノー氏から所有する現代美術コレクションを展示する空間を一緒につくろうと誘いを受けた。彼が展示空間として望んだのは、ベネチアにある古い建築だった。まず始めに運河沿いに建つ18世紀後半の邸宅を現代美術館に改修する『パラッツオ・グラッシ』、続いて17世紀に建設された海の税関『プンタ・デラ・ドガーナ』と、歴史的な建造物を再生し現代によみがえらせる機会に恵まれることになった。こうした一連の仕事で、外国人でありながらイタリアの歴史文化の理解と継承に一役買ったと評価していただけたのだと思う」
 「イタリアで経験したベネトンの仕事もピノーとのプロジェクトも、実はほぼ同じチーム、スタッフで取り組んでいる。率直に言って総合力という点においては日本の方が優れている。だがイタリアでともに働いた『チーム・ベネチア』のメンバーは皆、イタリアの古い建築に対する愛着と敬意がある。そして何より自らの仕事を楽しみ、強い誇りを抱いている。建築に対する深い理解、文化性がチームの強さの源になっていることに気づかされた」

日本の建築分野では丹下健三氏に次ぐ2人目の受章
「日本の現場はどうか。発注者も含め、コストが優先され、ものづくりの喜び、楽しさが現場から失われてはいないだろうか。これまで現場で働く大勢の職人たちとともに建築をつくり上げてきた。日本の建設技術は世界一だと今も信じて疑わない。かつて表参道ヒルズをつくった時も、厳しい施工条件を乗り越えたゼネコンの高い能力に驚かされたものだ。だが今のままだとシステマチックに生産される日本の建設現場において、職人たちは使い捨てられる存在になってしまうのではと危惧している」
 「好景気に沸きつつある今こそ、考えなければならない。日本の建設業には文化の力がまだ足りない。日本の国において建築が文化として根付くためにも、まずは現場で働く職人たちを大切にしてほしい。彼らを大事にしない限り、日本のものづくりはこれから衰退していくことだろう。これからも誇りある彼らとともに建築をつくっていきたい」
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

0 コメント :

コメントを投稿