2015/03/21

【技術裏表】点群と画像でスピード点検 トンネルの走行型計測車両『MIMM』

計測検査(北九州市)がトンネルの壁面画像と点群データを取得する走行型計測車両『MIMM』(ミーム)を誕生させ、4年半が経過した。現在は保有数を3台に増やし、これまでに約590㎞もの道路トンネルを計測し、本数ベースでは国内全体の1割に達する勢い。5年に1回のトンネル点検が義務化され、MIMMの活躍の場は一気に広がるとの期待を持っていた同社だが、構造調査部の舛添和之部長は「実は小休止の状態が続き、義務化による需要拡大はまだ先」と明かす。

 同社がトンネル計測を始めたのは15年ほど前。車両に搭載した10数台のデジタルビデオカメラで、走行しながら壁面画像を取得する『MIS』システムを考案し、取得画像から壁面の展開図をつくり、ひび割れや漏水の位置を把握してきた。当時はインフラ点検や調査の需要が現在より少ないこともあり、九州の高速道路を中心に細々と取り組んできた。

画像と点群を組み合わせた展開図
転機が訪れたのは2008年。三菱電機の3次元計測システム『MMS』との出会いだった。GPS(全地球測位システム)を使い、レーザー計測によって精度の高い点群データを取得できることを知り、「これをトンネルに応用できれば、壁面変状の原因を今まで以上に詳細に把握できる」(舛添部長)と、自社のMISと三菱電機のMMSを組み合わせ、10年8月にMIMMが誕生した。
 トンネルの点検業務は道路を片側通行にするなど交通を規制し、高所作業車を入れたり、場合によっては仮設足場を組む対応も必要になってくる。計測車両を走らせるだけで、詳細なデータが取得可能になれば、点検業務の大幅な合理化が実現できる。MIMMでは長さ1㎞のトンネルの調査時間が片側1分強となり、両車線合わせても2分半ほどで完了する。
 10年10月の初計測から、ことし2月末までの計測数はトンネル本数にして1145本。国内には約1万本のトンネルが存在することから、これまでに国内の1割に当たる本数のトンネルをMIMMで計測したことになる。建設コンサルタントには交通規制なしで調査できる利点から、技術提案の1つとして採用され、着実に計測実績を積み増してきた。

変状展開図の3D表示
MIMMは、デジタル画像データと点群データの2種類から現況を把握する。画像データを基にひび割れや漏水個所などを展開図に落とし込み、その後に点群データから浮き彫りにした壁面のコンター図を合成する。画像でひび割れの位置を指し示し、点群で周辺の形状も判断できる点が強み。トンネル点検では地山による変状がより注視されるだけに、調査精度は格段に上がった。
 トンネルや橋梁で5年に1回の定期点検が義務化されたのは14年7月。同社は需要拡大に備え、MIMMの保有数を増やして準備を整えていたが、「昨年夏からの計測実績はそれほど伸びていない」(舛添部長)のが実情だ。ことし2月末まで7カ月の計測距離は88㎞。地方自治体からは点検業務の効率化を求める声が多いものの、作業員が近づいて確認する「近接目視」を基本に点検を行うことが省令に盛り込まれたことがネックになっている。ただ、ひび割れの場所を特定する点検前のスクリーニング手法として採用されるケースが予想以上に増えている。

データ処理は専門オペレータが対応する
同社は保有する車両3台のうち、1台の改良に着手した。走行時に覆工面だけでなく、舗装面にも対応できるようになれば、より合理的な調査が可能になるとの判断からだ。走行車両と計測室は切り離せるため、鉄道トンネルにも対応しようと、実証試験もスタートさせた。いずれは残る2台も改良する方針だ。
 国土交通省の取り組むCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)でもMIMMを活用する動きが出てきた。舛添部長は「GPSで位置情報を決めるため、トンネル内では若干の誤差が生じる可能性があり、場合によっては対応が難しい場面も出てくる。できるところ、できないところを理解してもらえれば、CIMの有効なツールとして提供できる」と先を見据えている。
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