2015/03/15

【復興特別版】「建築家にできることが必ずある」 陸前高田市コミュニティホール設計の丹下氏に聞く

東日本大震災から4年が過ぎ、復興に向けて官民の多くの建築プロジェクトが進行している。一方で、居住地の移転に伴うコミュニティーの断絶という新たな問題も生じている。こうした状況下において、建築の役割とは何かが改めて問われている。シンガポール赤十字社からの義援金が建設費に充てられ、高台移転した復興住宅に隣接して建てられたコミュニティー施設「陸前高田市コミュニティホール」を設計した丹下都市建築設計の丹下憲孝代表に聞いた。

 震災発生当時、海外にいた丹下代表は、「建築家としてわたしたちにできることは何かを考えさせられた」と振り返る。「陸前高田市コミュニティホール」の設計に際しても、「単なる復興のシンボルではなく、住民の方々に将来の希望と心のよりどころを与える施設を目指した」という。

陸前高田市コミュニティホールのパース
想定されている利用者の多くは、市内全域から集まった復興住宅の入居者たちだ。異なる地域の住民が新しいコミュニティーを再構築する上で拠点となる施設が必要だった。そのため、「住民からは、とにかく早く利用できるようにしてほしいという強い要望があった」という。
 重視したのは「楽しい時も、大変な時にも人が集まる場」を提案することだ。いつでも住民が集まり議論できる場所を設けることで、「震災で断たれてしまったものを再構築し、新しい世代に新しい意味を生み出してほしい」という。人々が交流することで、「もう一度協力してまちづくりを進めるための場になってほしい」とも。
 設計に携わる中で、「建築家が被災した方々の思いを完全に理解し、それに答えを与えることはできない。しかし、建築家にできることが必ずある」と考えるようになったという。それは「広島平和記念公園」の設計を通じ、戦争で生き残った人々がいかに死者の記憶を継承するべきかを悩んだ父・丹下健三の思いとも重なる。「建築家は場をつくることしかできないからこそ、その役割を果たしていかなければならない」と力を込める。
 最適な「場」を構築するために、コミュニティセンターの設計に際しては陸前高田市全体を見据えた復興マスタープランも自主提案した。「高台移転でばらばらになったものをつないでいくためには、単体の施設設計にとどまらない提案が必要」と指摘し、街のどこからでも海の存在を感じられるプランを示した。
 コミュニティー施設においても広田湾に向けた軸線を取り高台移転により離れた海への意識を喚起させる。「物理的につなげられなくても思いをつなげることで1つのコミュニティーとしての気持ちが生まれる」とした上で、「原爆ドームのように、そこで何が起こったのかという記憶を残すことが大切ではないか。震災から受ける思いはさまざまだが、記憶を残すことで安全なまちづくりをしていく道しるべになる」と語る。

■地域に新たなつながり生み出す/企画・設計を担当した中山勝貴設計部統括

 「陸前高田市コミュニティホール」は会議室・和室といった集会場と380人収容の多目的ホールの2施設で構成する。2施設の中心には広田湾に向けた軸線を取り、「海の近くで暮らしてきた住民たちが、高台移転で海から離れてもその存在へ意識が向かうようにした」と企画・設計などを担当した丹下都市建築設計の中山勝貴設計部統括は語る。また、防災面ではヘリポートやソーラーパネルなどを設置し、非常時の避難施設としても使用できる環境を整えた。

工事の進む現場
施設内部は各所でコンクリートと気仙杉を使用し、RC構造ながら地元住民に親しみやすさとぬくもりのある空間を演出した。動線も明確化し、「分かりやすくて使い勝手の良い建築」を目指した。背景にあるのは「集まる場がない」という住民共通の悩みだ。気軽に集まり話し合える場所を整備することで、新たな生活に少しずつ馴染んでほしいと願う。
 市に自主提案したマスタープランも、高台移転で分散した住民の居住地に広田湾に向けた軸線を取るという計画だ。高台移転で分断された住民がともに意識が向かう場所を設けることで、「エリア全体のコミュニティーに貢献し、新たなつながりを生み出すきっかけになってほしい」と期待を寄せる。
 2階建て延べ2775㎡の施設は5月供用開始の予定だ。施工は佐武・菱和経常JV。
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