2015/03/26

【復興特別版】まちづくりにおける建築家の役割とは――『みんなの家』が示す新たな可能性 

16日に仙台市青葉区のせんだいメディアテークで開かれた第3回国連防災世界会議パブリックフォーラム「震災とコミュニティと建築」では、建築家の伊東豊雄氏らが提唱し、被災地各所につくられた『みんなの家』に関係する建築家らが一堂に会し、その意義を再確認するとともに、人や町の復興に果たした役割などを論じ合った。みんなの家の運営などを行うNPO・HOME-FOR-ALLと仙台市宮城野区が主催した。写真は仙台市宮城野区に建てられた初弾のみんなの家。

 みんなの家は、震災直後に伊東氏や山本理顕氏、妹島和世氏ら5人の建築家が結成した「帰心の会」が、仮設住宅団地の集会所とは異なる“憩いの場”として提唱したプロジェクト。「みんなで一緒に考える」「人と人の心のつながりの回復」「生きるエネルギーを生む」をコンセプトに、被災3県に12棟が建てられ、現在も宮城県石巻市、福島県の南相馬市と矢吹町で3棟が進行中。そのコンセプトから、被災地支援という役割を越え、公共施設の根源的なあり方や関係者が一体となってつくるプロセスなど、建築の新たな可能性を見いだす試みが行われている。

小野田泰明東北大大学院教授の進行によるシンポジウムには、妹島氏のほか、伊東氏とともに『相馬の子どものみんなの家』を設計したアストリッド・クライン氏(クラインダイサムアーキテクツ代表)、第1号の『宮城野区みんなの家』を支援したくまもとアートポリスのアドバイザーを務める桂英昭熊本大准教授らが登壇。
 宮城県東松島市半島部にある宮戸島の仮設住宅団地と月浜の2カ所の設計を担当したSANAAの妹島氏は「震災直後に宮戸島の住民と出会い、未来のまちづくりを考える中で、地域にかかわることの重要性と、設計、施工、使い手の一体感を再認識させてくれた」と、公共建築の原点を見つめ直す機会だったと振り返った。
 その上で「住民にとって、みんなの家をつくるプロセスを共有した経験は、地域のネットワークの1人として、楽しさと同時に責任を感じる第一歩になったのではないか」と住民主体のまちづくりにつながる可能性に言及した。
 桂氏は、2012年7月の九州北部豪雨で被災した熊本県阿蘇市に蒲島郁夫知事の指示で建設した『阿蘇みんなの家』の取り組みを紹介。「25年間アートポリスに携わる中、行政と初めて一体となった経験だった」とした。さらにアートポリス制度を利用して地元の阿蘇温泉病院が敷地内に、みんなの家を建設するプロジェクトを紹介し、みんなの家そのものが浸透している現状を報告した。

元気が出るインドアパークをイメージした相馬子どもみんなの家
クライン氏は「麦わら帽子のような屋根を持ち、元気が出るインドアパークをイメージした」と相馬子どものみんなの家の設計コンセプトを示しつつ、被災地に点在するみんなの家のネットワーク化を提案。「海外からの関心が高いこのプロジェクトを連携させ、情報を広く発信し、海外から見学に訪れる人との交流を生むことが、地域の活性化につながる」と建築家が手掛けた“スペシャル”な建築であることの利点を訴えた。
 小野田氏は「地域の資源を可視化できるのが建築家であり、資源が希少な地方の中でこそ、その役割が生きてくる」と建築家の役割を強調。これを受けて桂氏は「アートポリスでは、建築を“文化資産”と呼び、長い年月の中で従来のデザイン論から、みんなでつくろうという動きに変化しつつある」と、さまざまな関係者が携わる中で、高い品質の建築をつくることの意義を力説した。
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