2015/03/20

【けんちくのチカラ】自宅を「設計」したシャ乱・まことさんと大阪城ホール

ロックバンド・シャ乱Qのドラマーでミュージシャンのまことさんは、建築が大好きで、昨年完成したセカンドハウスと新旧2つの自宅を「設計」した。建築士の資格こそ持っていないが、方眼紙に平面図を描いてプロ並みにイメージどおりの住宅をつくる。「模型は客観的といわれますが、実際の人間の目の見え方とは違うので、平面図を眺める方が現実的な空間が頭に浮かびます」。完成した住宅は、まことさんにとってはデジャヴュ(既視感)。長年住んでいるような感覚にもなると言う。それは、若いころから匂いや肌触りまでも含むイメージトレーニングで夢を実現してきたことともつながっている。「想像できることは現実になる」。待望の「大阪城ホール」での初公演も、リアルな想像が現実に結びついた。

 シャ乱Qも1988年の結成時の公演は、小さなライブハウスからだった。
 「30-40人のライブハウスから始まって、目標は、東が日本武道館、西が大阪城ホールという観客数1万人を超す会場での公演でした。大阪城ホールは地元でもあったので、いろいろなアーティストを観客として見に行きました。中でも、松田聖子さんの公演が一番印象に残っています。96年、初めてそのステージに立って自分たちが演奏したときは、深い感慨がありました」

最大1万6000人の観客収容の巨大空間で、客席がステージを囲む。
 「とにかく大きいので、数秒前の音と今の音が混在するなど、1万人を超す観客が入ったときは、音の渦に巻き込まれます。カオス的な空気に包まれて、冷静ではいられない感じになりますね。1万人が一つの生命体のような不思議な感覚になります。鳥の群れが形を変えて同じ方向に飛んでいるのを見ると、一つの生き物のように見えますが、それに近いと思います。手拍子も波を打つように伝わっていくのがわかります。ぼくには特別な場所です」
 想像できることは現実になる--。まことさんは、若いころからそんなポリシーを持ち続ける。夢の実現に、体験と想像の区別がつかないほどのイメージトレーニングをするのだという。大阪城ホールでステージに立つ夢もスモークや照明でフィルムが焼き付く匂い、360度囲まれたステージ上からの景色、雰囲気などをリアルに想像した。
 「寝る前に布団に入ってからイメージトレーニングすることが多いのですが、夢に入る前くらいまで想像すると、起きたらぐっしょり汗をかいています。めちゃくちゃリアルに想像することで、体が実現する方向に向かって行くんです。超常的な話になってしまうかもしれませんが(笑)、時間軸を超えて未来の出来事を体験するくらいの想像です。大阪城ホールのほか、家、ポルシェ、憧れのテレビ番組などもそうです。大阪城ホールは、想像していたイメージがそのまま現実になり、感動はものすごく大きいのですが、心のどこかで『初めてなのに初めてじゃない』という冷静な自分がいます」

◆方眼紙を買ってきて、父と2人で設計図に没頭

 実際の建築設計を体験したのは20歳の時。大阪の実家の建て替えで、父親と2人で方眼紙を買ってきて、1年ほどかけて平面図を描いた。

自ら設計にかかわった河口湖のセカンドハウス
「一目盛り90cmで、大工さんと相談しながら考え始めたらおもしろくて。結局ほぼ2人で設計をしました。次が東京で、30歳を過ぎて結婚を機に戸建てをということで、また方眼紙を買ってきて約1年考えて、工事の方に提案。びしっと思い描いたとおりのものをつくってもらいました。イメージトレーニングをしていたこともあって、模型より平面図で想像する方が空間がはっきりわかるんです。そして昨年、山梨県の河口湖にセカンドハウスを設計しました。妻の弟夫婦が建築家でして、その2人が独立するきっかけとして一緒に設計をしました」
 現在、弟夫妻は独立して富永大毅建築都市計画事務所を設立。富永さんは隈研吾建築都市設計事務所、妻は千葉学建築計画事務所出身だ。
 「結構ぶつかり合いながら一緒にやりました。良い勉強になりましたね。このセカンドハウスの思い入れは激しくて、生まれ育った大阪の実家の『懐かしさ』をいかに取り込むかに力を注ぎました。今の建築は開放的で明るいのが当たり前ですが、その逆のような形で『光と影』がある家を考えました。例えば、薄暗いトイレ、玄関の敷居などです。いまの主流といえるミニマリズム(最小限主義)や面一(つらいち)はどうなのかなと思います」

【設計の視点 人海戦術で短期設計、未知の空間に挑む――当時新人で参加した 渡辺豪秀設計部長(日建設計大阪)に聞く】

渡辺豪秀設計部長(日建設計大阪)
大阪城ホールのオープンは1983年。この年、大阪城が築城400年を迎えるのを記念して建築された。当時、大阪府と大阪市は国際都市を目指す「大阪21世紀計画」を策定、その中心的プロジェクトにも位置付けられた。最大で1万6000人を収容する巨大アリーナは類似例が少なく、日本では日本武道館、海外では米国のマディソン・スクエア・ガーデンを参考にしたという。
 設計は日建設計。企画から着工まで8カ月という厳しい設計期間が設定され、CADもない時代だったので、構造や設備を含め約20人もの所員が集められ分業体制で一気に図面を描き上げた。
 そのメンバーの一人だった渡辺豪秀さん(現在は日建設計大阪の設計部門設計部長)は、入社2年目の20代半ばでこのビッグプロジェクトに設計から監理段階まで参加した。設計期間6カ月、工事16カ月という突貫工事だった。

ホール外観。景観に配慮して本体部分は地下に。1階周辺は大阪城との「つながり」から、石垣で囲んでいる
「設計図面は手描きでしたので、一般図、矩形図、詳細図、申請などに分業し、今では考えられない大人数が配置されました。短い工程に加えて、経験したことのない巨大ホールということで試行錯誤の設計でもありました」
 立地が大阪城のある史跡地区のため、天守閣の眺望を遮らないことも大きな条件。このため本体部分が地下に埋め込まれた鉄骨のドーム構造となった。大阪城との景観上のつながりを持たせるため1階周辺を石垣で囲んでいる。「石垣も32年経って大阪城の石垣に違わない風合いが出てきました」
 内部は約11万m3という桁違いの気積を持つ。「反響を抑えるため天井全面、観客席などに吸音性の高い素材を使って、できる限りデッドな空間をつくりました」。多様なイベントに対応できるよう、3つの舞台パターンに対応した吊物機構を設け、効果的な演出が可能なように考えた。
 渡辺さんは今も改修や保全工事などで同ホールを担当している。「たいへん稼働率が高く、建物の維持管理へ適正なコストが投入されていて、最新機能や設備を取り入れて観客のニーズに応えるなど、新しいホールに負けない運営がされて、多くの人に親しまれていると思います」

1968年生まれ 大阪府出身。『シャ乱Q』のドラマーとして92年7月にデビュー。親しみやすいキャラクターを生かしバラエティー番組等に数多く出演。その他“ハロー!プロジェクト”コンサートのMCや、また『シャ乱Q』活動中からも作詞家として、多くの作品をバンド内および他のアーティストへ提供。キャラクターや人間性が、お茶の間に認知されたミュージシャンを目指している。趣味で始めたアウトドアでは、高じて雑誌などにも展開し、富士山麓に自ら設計したセカンドハウスも建てた。そして、年に数回自転車レースに参加する程、熱烈な自転車マニアでもある。また、アップフロントグループが主催する、若者たちが里山・里海に集うことを呼びかけている運動「SATOYAMA&SATOUMI movement」にも積極的に参加している。
 今月28、29日にパシフィコ横浜展示ホールにて開催されるイベント『遊ぶ。暮らす。育てる。SATOYAMA&SATOUMIへ行こう2015』に出演予定。
★シャ乱Qオフィシャルウェブサイト http://www.sharam-q.com

【建築ファイル】

▽所在地=大阪市東区大阪城3番地
▽構造・規模=RC一部SRCおよびPCコンクリート造地下1階地上3階建て延べ3万6173㎡
▽アリーナ=スタンド席8928席(固定)、アリーナ部最大4500席設置可能。横83.4m、48.2m、天井高21m、面積3500㎡。コンサート、式典、スポーツ、展示会などに合わせて多彩なステージパターンで対応
▽設計・監理=日建設計
▽施工=大成建設・松村組JV(建築)、朝日工業社・倉石工業JV(空調)、大気社・三冷社JV(同)、新日本空調・大阪城口研究所JV(衛生)、太陽工藤工事・ヤマト電気エンジニアリング、関東電気工事・八千代電設工業JV(電気)
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