日本の国際競争力を高めるには、中核となる東京の都市力アップが不可欠だ。老朽都住、空き家を一挙に解決森記念財団都市整備研究所の西尾茂紀上級研究員は『2030年の東京part3』を提言、高齢者が増え若者が減るシニア・シフト問題が、東京でも深刻化する前にいまから手を打たなければ間に合わないと指摘する。強度不足や老朽化で建て替えが迫られる都営住宅と、さらに増加が見込まれる民間の空き家賃貸の問題を、一挙に解決できるという。その内容とは。
--提言のターゲットを2030年に据えた理由は
「わたしたちの予測によると、東京23区内の生産年齢人口(15-64歳)は30年に637万人で、10年と比べ9万人増える。しかし、増加要因だった団塊ジュニア世代が、36年から65歳以上になるので、40年には602万人に落ち込み、働く人が減る。東京を衰退させないためには、年齢や性別、国籍などさまざま人が住んで働き、楽しめる生活多様性社会の基礎を、30年までにつくらないといけない。それにはあと15年しかない」
--グローバル化に注目しているが
「人口減少、特に若者の減少対策として、地方から人を集められなければ、海外から入れるしかない。その場合、単純に労働者を入れるのではなく、ある程度知識を持ち、しかも若い人がいいので、留学生を受け入れるのが望ましい。日本は若者が減るので、大学側も留学生へのニーズが強い。日本や東京が伸びていくには、斬新なアイデアやイノベーション(技術革新)が必要だ。東京がアジアでイノベーション・ハブ(中軸)になるには、留学生を含め若い人がいなければいけない」
--空き家の問題を取り上げているのは
「23区内には空き家が58万戸(13年)ある。全国で問題になっているのは一戸建ての空き家だが、東京区部は賃貸が4分の3を占めている。バブルのとき相続税対策で、ワンルームマンションなどを建てたからだ。いまは、駅から10分以上離れていると人気がなく、空き部屋が多い。税制改正で相続税の基礎控除が引き下げられるので、その対策として賃貸の供給が増え、30年には空き家が95万戸に達し、6戸に1戸が空き家になると推計している。23区内にこれだけ空き家があり、利用されないのはもったいない」
「1981年の新耐震設計法以前の都営住宅は23区内に11.5万戸ある。都によると、このうち耐震補強済みなどを除き、早急に建て直さないといけないのは4.9万戸という。昨年12月に提言を発表した際は、11.5万戸の建て替えをやめて民間の賃貸に移ってもらい、家賃補助に切り替える方が安く済むと提案した。発表直後に都から、都営住宅1戸当たりの建設費を含むライフサイクルコストは約2100万円という指摘があり、われわれが考えていた5000万円と大きく違い、根幹となる前提が崩れた」
--想定コストの半分以下では提言が成り立たないが
「そこで、都営住宅は原則として、住宅扶助世帯を対象とすることに変更した。都営の平均家賃は月2.3万円、都営以外に住んでいる扶助世帯は12.8万世帯で、月平均5.3万円の扶助費を支給している。扶助世帯が都営に入れば月3万円の節約になり、合計すると年間466億円にのぼる」
「これを原資に、民間賃貸住宅が2戸をつなげて広い1戸にするリノベーションをした場合、費用を助成する。2戸1化の費用は平均350万円程度のため、年間1万3314戸が供給できる。費用を助成する条件として、家賃を周辺より10年間、25%安くさせれば、若い世代や留学生も住むことができるし、空き家の削減にもつながる」
--都営住宅はどう活用すべきか
「山手線内や臨海部の都営住宅は、グローバル化に対応した施設を建設する。例えば、都は土地を60年間ただで貸し、大学がそこに留学生会館を建てれば、税金を使わないで済む。災害時には防災公園に使えるよう、防災関連施設といった利用方法もある。ほかの地区は、建て替えるときに高齢者施設などを合築すれば、家族が仕事帰りに気軽に会いに行ける。待機児童を減らすため保育所なども考えられる」
--提案の実現に必要なことは何か
「少子高齢化やグローバル化、防災への対応のため、国は戦略特区に指定して、都営住宅以外にも利用できるようにすべきだ。東京都も縦割りでなく、部局の垣根を取り払い、セクションを超えて総合的に取り組めば、必ずうまくいくはず。残された時間は少ないので、スピード感を持って実施する必要がある」
◆横顔
1985年3月日大大学院理工学研究科建築学修了、同年4月森ビル入社。90年森記念財団出向、2012年6月から現職。一貫して東京区部の都市構造の将来予測と提案の研究に取り組む。昨年12月に提言をまとめた『2030年の東京part3』を発表した。都庁に20冊届けたが、関係部署ではコピーが大量に出回り、隠れたベストセラーに。提言には、東京をいまより少しでも良くしたいという思いがこもっている。著書に『まちづくりの哲学』(共著、彰国社)。55歳。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら
--提言のターゲットを2030年に据えた理由は
「わたしたちの予測によると、東京23区内の生産年齢人口(15-64歳)は30年に637万人で、10年と比べ9万人増える。しかし、増加要因だった団塊ジュニア世代が、36年から65歳以上になるので、40年には602万人に落ち込み、働く人が減る。東京を衰退させないためには、年齢や性別、国籍などさまざま人が住んで働き、楽しめる生活多様性社会の基礎を、30年までにつくらないといけない。それにはあと15年しかない」
--グローバル化に注目しているが
「人口減少、特に若者の減少対策として、地方から人を集められなければ、海外から入れるしかない。その場合、単純に労働者を入れるのではなく、ある程度知識を持ち、しかも若い人がいいので、留学生を受け入れるのが望ましい。日本は若者が減るので、大学側も留学生へのニーズが強い。日本や東京が伸びていくには、斬新なアイデアやイノベーション(技術革新)が必要だ。東京がアジアでイノベーション・ハブ(中軸)になるには、留学生を含め若い人がいなければいけない」
都の防災公園(10ヘクタール以上)は、環七通り内側には木場公園しかないため、 都心やその周辺にも設置が必要 |
「23区内には空き家が58万戸(13年)ある。全国で問題になっているのは一戸建ての空き家だが、東京区部は賃貸が4分の3を占めている。バブルのとき相続税対策で、ワンルームマンションなどを建てたからだ。いまは、駅から10分以上離れていると人気がなく、空き部屋が多い。税制改正で相続税の基礎控除が引き下げられるので、その対策として賃貸の供給が増え、30年には空き家が95万戸に達し、6戸に1戸が空き家になると推計している。23区内にこれだけ空き家があり、利用されないのはもったいない」
「1981年の新耐震設計法以前の都営住宅は23区内に11.5万戸ある。都によると、このうち耐震補強済みなどを除き、早急に建て直さないといけないのは4.9万戸という。昨年12月に提言を発表した際は、11.5万戸の建て替えをやめて民間の賃貸に移ってもらい、家賃補助に切り替える方が安く済むと提案した。発表直後に都から、都営住宅1戸当たりの建設費を含むライフサイクルコストは約2100万円という指摘があり、われわれが考えていた5000万円と大きく違い、根幹となる前提が崩れた」
--想定コストの半分以下では提言が成り立たないが
「そこで、都営住宅は原則として、住宅扶助世帯を対象とすることに変更した。都営の平均家賃は月2.3万円、都営以外に住んでいる扶助世帯は12.8万世帯で、月平均5.3万円の扶助費を支給している。扶助世帯が都営に入れば月3万円の節約になり、合計すると年間466億円にのぼる」
「これを原資に、民間賃貸住宅が2戸をつなげて広い1戸にするリノベーションをした場合、費用を助成する。2戸1化の費用は平均350万円程度のため、年間1万3314戸が供給できる。費用を助成する条件として、家賃を周辺より10年間、25%安くさせれば、若い世代や留学生も住むことができるし、空き家の削減にもつながる」
--都営住宅はどう活用すべきか
「山手線内や臨海部の都営住宅は、グローバル化に対応した施設を建設する。例えば、都は土地を60年間ただで貸し、大学がそこに留学生会館を建てれば、税金を使わないで済む。災害時には防災公園に使えるよう、防災関連施設といった利用方法もある。ほかの地区は、建て替えるときに高齢者施設などを合築すれば、家族が仕事帰りに気軽に会いに行ける。待機児童を減らすため保育所なども考えられる」
--提案の実現に必要なことは何か
「少子高齢化やグローバル化、防災への対応のため、国は戦略特区に指定して、都営住宅以外にも利用できるようにすべきだ。東京都も縦割りでなく、部局の垣根を取り払い、セクションを超えて総合的に取り組めば、必ずうまくいくはず。残された時間は少ないので、スピード感を持って実施する必要がある」
◆横顔
1985年3月日大大学院理工学研究科建築学修了、同年4月森ビル入社。90年森記念財団出向、2012年6月から現職。一貫して東京区部の都市構造の将来予測と提案の研究に取り組む。昨年12月に提言をまとめた『2030年の東京part3』を発表した。都庁に20冊届けたが、関係部署ではコピーが大量に出回り、隠れたベストセラーに。提言には、東京をいまより少しでも良くしたいという思いがこもっている。著書に『まちづくりの哲学』(共著、彰国社)。55歳。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら
0 コメント :
コメントを投稿