2015/11/03

【インタビュー】新たな日本人論『災害列島から生まれた価値観』著者・大石久和さんに聞く


 国土交通行政に長く携わってきた大石久和国土技術研究センター所長=写真=が、日本固有の『国土』に根ざす新たな日本人論を展開する。日本列島の地理や地形、大規模自然災害などを経験するなかで培われた日本人の感性や思考を読み解き、ヨーロッパや中国など他民族との死生観、権力構造などに起因する根本的な“違い”を明らかにした。「グローバル化した社会で活躍するために、日本人としての立脚点を持ち、若者に羽ばたいてほしい」と願いを込めて執筆した大石所長に、話を聞いた。

 日本人は今、規制緩和や構造改革などを推し進める新自由主義経済で、「競争と短期評価に振り回され、あらゆる場面で改革が連呼される中で自信を見失っている」と実感する。しかし、戦後の高度経済成長を成し遂げ、独自の文化を育んできた日本人が、「ことさらダメだと思う必要があるのか」と疑問を投げかけ、「日本人を真剣に見つめ直す必要があると思った」と執筆の動機を語る。
 彼我の違いを読み解く上で最初に考えたのが、「われわれがこの国土の上で何を経験し、ヨーロッパ人や中国人が何を経験してきたのか、その違いから説き起こす」ことだ。
 例えば、大きな違いに死生観がある。「日本人の死因の最大のものは、古来より頻発する自然災害だ。これが『災害死史観』を形成した」という。それは、ひとたび大災害が起きれば人や建物など多くのものが消失し、「嘆いていてもしかたがない、あきらめて受け入れるしかない」という感性、考え方につながった。
 自然災害が極端に少ないヨーロッパや中国では、最も多くの人命を失ったのが紛争や戦争であり、これが『紛争死史観』を形成した。「人間は愛するものが死んだときに一番深く考える。この違いがわれわれと彼らを大きく隔てている」と指摘する。
 例えば、ヨーロッパ人や中国人は造ったが、日本人が造らなかったのが城壁だ。「中国人が長安を建設するとき最も金と労力をかけたのが城壁だ。しかし日本人は平城京に城壁を設けなかった」と説明。民族がすさまじい紛争を繰り返す大陸と距離を隔てた日本は、「紛争影響圏」の外側に立つことができ、また、小さな盆地など狭い土地に暮らしてきたことで大権力が生まれにくく「大量虐殺の経験がなく、そうした経験に考え方が規定されてきた」という。


 こうした地理的条件から生じる経験が「民族の個性を規定していることは間違いない」ことであり、他者と比べ遅れているか、進んでいるかという問題ではない。「日本人としての立脚点を見つめ直すことで自信を取り戻し、国際社会の中で再出発しなければならない」と力を込める。

■世界で活躍するための手引き
 長い間、国土交通省で「国土に働きかけ、国土から恵みをいただく」ためには何を行えばいいか考え実践してきた著者が、「国土のはたらきかけの歴史」に関する世界と日本の違いを見比べながら研究する中で「国土から得る経験の違いが民族の歴史を規定する」との考えに至り、日本人本来の姿を描き出す。
 グローバル化が進展する中で、政治・経済の双方で自信を見失いがちな日本社会。互いに異なる経験のなかから身につけた価値観の“違い”を知ることで、根強い“自国否定”の精神から脱却する足がかりとし、世界で活躍するための手引きとなる1冊。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【本】避難所として機能するには 『鉄骨置屋根構造の耐震診断・改修の考え方』  東日本大震災は、津波による被害があまりにも大き過ぎたため、そのほかの被害は目立たなくなってしまった。しかし、次の災害に備え、同じ轍(てつ)を踏まないようにするには、被害の実態と原因の究明は不可欠だ。  本書が取り上げている鉄骨置屋根構造は、RC造の柱などに鉄骨の屋根が載っている施設で、体育館や公共スポーツホールなどに採用されている。こうした大空間の施設は、災害が起きれば避難所に使われることが多い。東日本大震災では、揺れによって鉄骨の屋根… Read More
  • 【北海道建協】女性活躍推進フォーラムが冊子に パネルディスカッションでの提言・意見も紹介  北海道建設業協会(岩田圭剛会長)は、2月1日に札幌市内で開催した「建設業女性活躍推進フォーラム」の内容をリポートした冊子=写真=を1000部作成し、関係者や関連団体のほか、地方建設業協会を通じ会員企業に配布した。  同フォーラムは、建設関係団体や行政機関などで構成する北海道建設産業女性活躍推進協議会の主催で、北海道建設業協会が事業実施管理団体。会場には、建設業などに携わる女性従業員ら約330人が集まった。 パンフレットはA4判で、カラー… Read More
  • 【本】イラスト・写真多用でわかりやすい! 大建協が『知っておきたい解体工事』発刊  大阪建設業協会は、解体工事の基礎知識を解説した『知っておきたい解体工事』を発刊した。建築物の老朽化や土地の有効利用など、解体需要の増加に対応。総合建設業の立場で、解体工事のポイントや知っておきたい基礎知識などを分かりやすく解説している。  築40年が経過したRC造10階建ての建物をモデルに、解体する上での注意点やポイントを事前調査から計画、管理まで工程に沿って解説している。イラストや写真も多用、必要不可欠な基礎知識が修得できるよう工夫… Read More
  • 【PIERS研究】イギリスの海岸リゾート桟橋に学ぶ『英国Piers調査報告書2015』を刊行  PIERS研究会(古土井光昭会長)は、『英国Piers調査報告書2015』を刊行した。英国の歴史遺産である海岸リゾート桟橋建設の歴史的な背景、調査した桟橋の歴史と現状、英国の桟橋と海岸整備の特徴などとともに、日本への応用にも考察を加えた。  同協会は、13年から3カ年にわたり、英国の桟橋(Piers)調査を実施。100年以上の歴史を持ち、現存する58本の桟橋のうち、56本を調査した。報告書では調査の目的と概要、調査した桟橋と周辺海岸の概… Read More
  • 【三条市】嵐渓荘緑風館、遠人村舎など詳しく紹介! 『歴史的建造物報告書』を刊行  新潟県三条市は、『同市歴史的建造物調査報告書』を刊行した。2010年度から実施している歴史的建造物調査の結果をまとめたもので、市指定有形文化財の升箕社や国登録有形文化財の嵐渓荘緑風館、遠人村舎、旧新光屋米店などを詳細な図面と解説文で紹介している。長岡造形大の平山育男教授と西澤哉子研究員が執筆した。  同報告書は市内の公共施設(中央公民館、栄公民館、下田公民館、図書館、歴史民俗産業資料館)に収蔵している。購入も可能で、価格は1000円。問… Read More

0 コメント :

コメントを投稿