国土交通行政に長く携わってきた大石久和国土技術研究センター所長=写真=が、日本固有の『国土』に根ざす新たな日本人論を展開する。日本列島の地理や地形、大規模自然災害などを経験するなかで培われた日本人の感性や思考を読み解き、ヨーロッパや中国など他民族との死生観、権力構造などに起因する根本的な“違い”を明らかにした。「グローバル化した社会で活躍するために、日本人としての立脚点を持ち、若者に羽ばたいてほしい」と願いを込めて執筆した大石所長に、話を聞いた。
日本人は今、規制緩和や構造改革などを推し進める新自由主義経済で、「競争と短期評価に振り回され、あらゆる場面で改革が連呼される中で自信を見失っている」と実感する。しかし、戦後の高度経済成長を成し遂げ、独自の文化を育んできた日本人が、「ことさらダメだと思う必要があるのか」と疑問を投げかけ、「日本人を真剣に見つめ直す必要があると思った」と執筆の動機を語る。
彼我の違いを読み解く上で最初に考えたのが、「われわれがこの国土の上で何を経験し、ヨーロッパ人や中国人が何を経験してきたのか、その違いから説き起こす」ことだ。
例えば、大きな違いに死生観がある。「日本人の死因の最大のものは、古来より頻発する自然災害だ。これが『災害死史観』を形成した」という。それは、ひとたび大災害が起きれば人や建物など多くのものが消失し、「嘆いていてもしかたがない、あきらめて受け入れるしかない」という感性、考え方につながった。
自然災害が極端に少ないヨーロッパや中国では、最も多くの人命を失ったのが紛争や戦争であり、これが『紛争死史観』を形成した。「人間は愛するものが死んだときに一番深く考える。この違いがわれわれと彼らを大きく隔てている」と指摘する。
例えば、ヨーロッパ人や中国人は造ったが、日本人が造らなかったのが城壁だ。「中国人が長安を建設するとき最も金と労力をかけたのが城壁だ。しかし日本人は平城京に城壁を設けなかった」と説明。民族がすさまじい紛争を繰り返す大陸と距離を隔てた日本は、「紛争影響圏」の外側に立つことができ、また、小さな盆地など狭い土地に暮らしてきたことで大権力が生まれにくく「大量虐殺の経験がなく、そうした経験に考え方が規定されてきた」という。
こうした地理的条件から生じる経験が「民族の個性を規定していることは間違いない」ことであり、他者と比べ遅れているか、進んでいるかという問題ではない。「日本人としての立脚点を見つめ直すことで自信を取り戻し、国際社会の中で再出発しなければならない」と力を込める。
■世界で活躍するための手引き
長い間、国土交通省で「国土に働きかけ、国土から恵みをいただく」ためには何を行えばいいか考え実践してきた著者が、「国土のはたらきかけの歴史」に関する世界と日本の違いを見比べながら研究する中で「国土から得る経験の違いが民族の歴史を規定する」との考えに至り、日本人本来の姿を描き出す。
グローバル化が進展する中で、政治・経済の双方で自信を見失いがちな日本社会。互いに異なる経験のなかから身につけた価値観の“違い”を知ることで、根強い“自国否定”の精神から脱却する足がかりとし、世界で活躍するための手引きとなる1冊。
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