建設技能労働者一人ひとりの就労履歴をシステム上に蓄積し、技能と経験を「見える化」することで、働き手の処遇改善につなげる。建設業界の十数年来の悲願とも言えるシステムの構築に向け、国土交通省や建設業団体などが議論を本格化させている。関係団体の実務者らが集まった会議が開かれ、英国では20年前から運用が始まったシステムが先進事例として紹介された。どういうものなのだろうか--。
英国で導入されている建設技能認証制度「CSCS(Construction Skills Certification Scheme)カード」は、1995年4月に運用開始された。国家基準に基づく技能レベルや現場で安全に作業するために必要な知識を備えていることを証明するカードで、2014年末時点で約190万人が保有しているという。
運営主体は非営利の有限会社「CSCS Limited」。建設業団体などの関係者が役員を務めている。
◆必要な資格・訓練の有無を簡単に証明
カードの取得申請は、本人か雇用者が、電話または郵送で行う。取得に当たっては、国家資格を有していることと、安全衛生試験の受験が必須条件となる。不法就労者を排除するため、受験時には運転免許証などによる本人確認を実施している。再試験・更新期間は3-5年。カード発行・更新費用は、安全衛生試験の受験費用を含め、約9000円弱となっている。
CSCSカードは、資格や技能のレベルを示すために色分けされ、13種類にランク付されている。赤は訓練生、緑は基礎レベル、青は技能者レベル、金は高度技能者・監督レベルといった具合だ。
カード発行に関する法的な位置付けやカード保持の法的義務は存在しないが、実際の運用として、多くの発注者や建設会社が、カードを持っていない人の現場入場を不可としているのが実態という。安全衛生面の知識習得が徹底されているためか、英国は日本や米国、カナダ、ドイツ、シンガポール、韓国など諸外国に比べ、建設業の死亡災害発生率が格段に低い。
カードの大きさは日本の運転免許証とほぼ同じで、資格情報も収納できる。主に入退場管理や従事する業務に必要な資格の確認、給与支払いのための労働時間管理に使われている。
カードにはICチップが内蔵されており、無料の専用アプリをインストールしたスマートフォン・タブレットや7000-8000円から売られている市販のカードリーダーで情報を読み取る。資格情報などは簡単にデータベースに取り込み、各社で管理することも可能だ。
CSCSカードは、現場従事者側にとって必要な資格・訓練の有無を簡単に証明でき、企業側にとっても不適切な人の現場入場や作業従事を防止できる。労働者の資格確認やデータ入力の手間を大幅に軽減できるのもメリットの1つだ。
日本ではことし8月、建設技能労働者の経験が蓄積されるシステムの構築に向け、官民コンソーシアムが発足した。
今月4日にはコンソーシアムの下、対象とする人や現場の範囲、運用主体、費用負担など各種テーマの詳細を検討する「作業グループ」が議論を開始した。15年度内には一定の方向性を盛り込んだ中間まとめを行う。16年度の試行運用、17年度の本格運用を目指している。
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