「ウレタン補修のニーズが拡大している」と、アキレス開発営業部の田中弘栄主任技術員は強調する。トンネルの覆工コンクリート背面に生じた空洞を補修する発泡ウレタンの適用件数はことしに入り、9月末までに前年実績に並んだ。東京都内では陸橋の長寿命化対策に適用される事例もあり、インフラ構造物を支える素材としてウレタン活用の可能性が広がってきた。写真は豊玉陸橋の桁下に発泡ウレタンを充填している様子。
同社が軽量盛土の工法として、発泡ウレタンの提供を始めたのは30年前にさかのぼる。発泡スチロールの吹き付けもラインアップに加え、工事の条件に応じた対応を進めてきた。トンネル補修のニーズが出てきたのは20年ほど前からだ。山陽新幹線のトンネル補修で経験を積みながら、2006年から市場開拓を本格化させた。
覆工コンクリートの背面に発生した空洞は崩落の原因になる可能性があり、従来は空洞をエアモルタルなどで塞(ふさ)ぐ対応が進んでいた。発泡ウレタンの注入は設備や材料を1台のトラックに搭載できるほどコンパクトで場所をとらず、固化時間も10分程度と早く、施工の優位性はあったが、コストがネックになり、需要を取り込めずにいた。発泡倍率を30倍から40倍に変更し、コスト競争力も発揮できるようになり、弾みが付いた。
本格化するトンネル補修 |
12年12月の中央自動車道笹子トンネル天井板落下事故を契機に、土木構造物の定期点検が動き出し、近年は同社が展開するトンネル裏込補修用ウレタン注入(Tn-p)工法へのニーズが一気に広がっている。田中氏が「いま、社内で一番ホットな工法」と言うように、14年に入ってから適用件数は増加基調に転じている。
同社はインフラ分野の開拓部署として開発営業部を組織化し、これまで事業部単位で進めてきた製品展開を横断的に提案する枠組みに切り換え、多様化するインフラ分野のニーズを取り込む。震災復興の本格化や東京五輪開催の関連需要が動き出す期待もあり、中長期にわたって需要拡大が見込めると判断している。
新たなニーズも出始めてきた。目白通りと環状7号線が交差する豊玉陸橋(東京都練馬区)には、橋桁の下部に充填した発泡ウレタンに、橋荷重を受けさせる長寿命化工事が施された。施工時の交通規制が難しく、しかも工期短縮が求められたことから、設計を担当した中央復建コンサルタンツの提案で発泡ウレタンの採用が決まった。
注入量は約400m3。桁下に密着して充填でき、橋脚など基礎部への負担が少ないことが採用の決め手になり、工期もわずか1カ月という短期間で済んだ。既に橋梁工事では5件程度の実績があるが、陸橋の補強に対応したのは初めて。田中氏は「今後も陸橋への需要は出てくる」と考えている。
農業用水路トンネルの機能回復ニーズにも新たな発泡ウレタン技術を準備している。水路では老朽化による側壁のクラックや、底盤の摩耗などが多く、特に上部の空洞が原因となるトンネル側面の変状が問題視されている。覆工コンクリートと地山の間に発生した空洞に発泡ウレタンを注入するが、周辺土圧を均等にするため、空洞と加圧の2度に分けてウレタンを注入する「FRT工法」を考案した。
水路には2度に分けて注入する |
水路は径が2m程度と小さく、長距離におよぶことから、運びやすさを考慮し、バッテリーで動く小型の注入装置も開発した。施工時には大がかりなプラント設備が必要ないため、施工効率が大きな強みになる。試験施工を完了し、いつ対策工事を依頼されても対応できるように準備している。
インフラ分野を開拓する開発営業部は現在6人体制。各部署から集まり、横断的に組織の橋渡し役を担う。田中氏が「いまはウレタンを軸に攻めているが、新たな技術検討も水面下で進めている」と説明するように、同社のインフラ開拓の歩みはさらに速度を増しそうだ。
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